第16話-隷属の首輪

狭くないように洗濯槽内部を広げて美琴を中にそっと降ろした。

『ふふ。俺みたい。』

「もう、濯ちゃんたら。」

脱水槽から顔を出してニコニコ笑いながらそう言うと、美琴は困ったように笑った。

『蓋を閉めるよ。そのままここに居て。』

「……だ、大大夫なの?あの人、とても恐い人なの。濯ちゃんはオバケだしあの人オバケを怖がるような人じゃ……」

『大大夫だよ。いいよって言うまで開かないでね?』

そう言うと、美琴はこくこくと頷き洗濯槽に隠れた。


まったく。俺の大切なご主人様を泣かせるとは万死に値する。……が、ここで本能に任せて動くのは低級魔のやる事だ。理性的に行こうではないか。



俺の分身体は脱水槽から出て、異世界人へと擬態する。いつも使う勇者の姿。人間相手ならコイツの容姿はかなり好感が持てるはずだ。


癖のある銀灰ぎんかい色の髪は腰まで届くほど長く、整った顔立ちに落ち着いた切れ長の瞳は赤銅しゃくどう色をしている。長身で細身だが鍛え抜かれた身体。衣類はシャツとスラックスでいいか。

髪の色は、日本人に合わせて魔法で黒く染める。

ふと首元に手を添えると、アクセサリーのチョーカーにしては硬く冷たい首輪が付いていた。


これは使役魔の首輪だ。普段の俺ならこんな物で自由を奪われるなんて耐えられない。

主人を殺してでもこの束縛から逃れていただろう。

けれど、この首輪は無意識であっても美琴が付けた彼女の所有物であるという証だ。


嬉しさにゾクリと身が震え、愛しげにその首輪を撫で、ふっと微笑んだ。

「これは絶対に外せないな。」


頭の奥では、これは隷属魔法の影響であって俺自身の感情では無いのだと警鐘が聞こえる。

いいじゃないか。こんなに幸せなのだから。


さて、俺の大切な主人を困らせる不届者にはご退場願おうか。


俺は土間を降りて玄関に行くと、美琴を威嚇するように派手に戸を叩き音を立てている男の元に行った。


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