第14話-洗濯機の留守番2
一分間の脱水設定をして、また頬杖をついて脱水を待つ。すぐにビービーと音が鳴り、よいせよいせと洗濯槽に洗濯物を戻して水を入れ始める。
じゃぶじゃぶと溜まっていく水を、また脱水槽から眺める。
『……今日帰ってきたら、美琴にテレビ見ていいか聞いてみよう。』
あれ……この家、テレビあったか?
開け放たれた居間は、何も無かった気がする。
『いいか。聞いてみて、無かったら本を借りよう。女性が読む本も気になるし。美琴の好みも分かるよな。』
ごごご……ちゃぷ……ががが……ちゃぷん。
濯ぎ、五分くらいか。ワンピースとか無かったよな。たしか……パジャマと下着とバスタオルと……とエプロンと……。
『五分で、大大夫かな。』
美琴が居ないと暇だ。
彼女は何の仕事をしているんだろう。
前の持ち主のタクミは職人だった。大工だったらしく、いつも沢山汚して帰ってきて俺を使って服を洗っていた。たまに設定された時間じゃ落ちきれなくて、洗う時間を勝手に増やしていたりしたからよく首を傾げられたものだ。
俺はまだ、美琴の事を何も知らない。
もっと色々知りたい。外に出て彼女の見ている世界や街の様子を自分の目で見て回れたら良いのだが……。
俺はこの世界に来て洗濯機を一つ喰って以来、何も口にしていない。なので、人の姿は異世界の者しか再現できないし、衣類も異世界の物だからこの世界では浮いてしまう。動物に化けようにも、これもまた異世界の魔物や動物ばかりだ。
一人くらい喰っておけば……とも思ったが、この世界は、たった一人行方不明になっても大騒ぎする程に平和で、監視の目も厳しい。騒ぎになるのは避けたい。
食事という面では、人のように毎日食べなければ死ぬという事は無いし、機械に擬態していれば電気がエネルギーに変換されるので腹も減らない。俺を敵視して襲ってくる者も、害する者も居ない。
そんな感じで、いままで喰う必要も無かったのだ。
そのためこの世界の物で擬態できるのはこの二層式洗濯機のみだった。
この世界では魔法は幻想であり実在しない技術なので、要らない干渉をしないため魔法も使って来なかった。
まぁ先日、美琴を喜ばせたい一心で使ってしまったのだけど。
濯ぎが終わると、またズゴゴゴ……と水を抜く。
『全自動二層式洗濯機なんて俺くらいだよな。』
ちょっと自慢げに言ってみる。
魔法も使えば乾燥だって出来そうだが、美琴の大切な衣類を焦がしては大変なのでその辺りの調節のために、焦げても良い物で練習したい。いままで破壊専門だったから、生活に魔法を組み込む事が楽しい。その先に美琴の笑顔があるなら尚更だ。
『今日はここに干して、風魔法で空気を循環させておくか。』
美琴は脱衣所にハンガーや洗濯バサミがいっぱい付いたヤツを頭上に取り付けたつっかえ棒に下げて行ってくれた。
俺はフンフンと鼻歌を歌いながら、洗濯を終わらせて、一枚一枚丁寧に洗濯物を干し、美琴が帰るまでに乾くよう、フワフワと風を循環させたのだった。
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