第12話-初めての洗濯3

魔法の軌跡が見えない美琴でも見えるよう、魔法に色を付け“可視化”する。


こっちの世界じゃ見れないものだし、オバケに興味がある美琴だったら喜ぶと思ったのだ。

「ふぉぉお。これはなに!??」


案の定、美琴は目を輝かせていて俺は小さく笑う。機嫌が戻ったみたいで良かった。


『オバケは色々できる。特に俺は長く生きてるから、もっと色々できる。』


正確には俺が異世界出身で、長年いろんな魔物やら人間やらを喰らってスキルを吸収してきたから使えるわけだが、美琴が知るには血生臭い話だ。


折角、こんな平和な世界に住んでいるんだ。言わなくて良い事は言わない。俺はオバケのままで十分だ。


「色々って、何が出来るの?」

『そうだな。たとえば……。』

魔法一覧のウインドウは俺の意思で勝手にスクロールされ、魔法を選択しながら細かな設定がなされていく。片手を掲げると野球ボールくらいの風の球体が発生した。

『見てて?』

それを床に落とすと球体の中に洗剤の粉が吸い寄せられていく。指をひょいひょいと動かせば、球体もまた移動して、溢れた洗剤はほぼ吸い取った。

「わぁ!可愛い!丸い掃除機みたいね。」

『面白いだろ?』

球体を美琴の足の上に持っていくと、そこに溢れた洗剤も吸い取っていく。

「ふふっ擽ったい。」

『美琴も綺麗になった。箱を起こして床に置いてくれる?』

「……これでいい?」

『うんうん。』


空になった箱の上に球体を持ってくると、両手で球体の大きさほどの輪を作り、ぐっと拡げるように離すと、粉洗剤をぎゅうぎゅうに詰め込んでいた風の球体も大きくなっていく。

不純物を風を使って取り除いていき、洗剤のみをサラサラと箱に戻していく。

こんな魔法の使い方をしたのは初めてだ。本来なら風魔法は切り裂くか薙ぎ倒すものだから。 

誰も傷つけない魔法の使い方か。これはこれで面白いな。


最後の一粒まで箱に戻すと息を呑んで見つめていた琴音がパチパチと拍手する。

「濯ちゃん!すごい!見て、元通りだわ。ありがとう。」

嬉しそうに俺に箱を見せながらそう言うと、俺の分身体の黒い影の頭の部分を撫でようとしてスカッと宙を掻く。

『あ……あぁ、すまん。この姿は触れないんだ。』

「そうなの?オバケはやっぱり触れないのね。」

残念そうな美琴を見つめる。

俺も……褒められたい、なんて年甲斐も無く思ってしまう。どうせなら本体に触れて欲しい。

『あの、あのな……!代わりに洗濯機を撫でてくれたら……その、嬉しいんだ……けど。』

チラリと琴美を見上げると、頬を染めて、だらし無く顔を緩めて笑いながら俺を見ていてビクッとする。

「濯ちゃぁん!!」

『わぁっ!?』

突如、ガバッと洗濯機に抱き付いてあちこち撫で回され。俺はあまりの驚きに思考が停止する。

「なぁんて可愛いオバケなの?私あなたの事大大大好きよ!あぁぁ!あなたと出会えて良かった!」


俺からしたら泣くほど嬉しい言葉だ。一気に心が満たされていく。俺も美琴を抱き締めてスリスリできたらどんなに良いだろう。


俺は分身体で、彼女の頭を撫でるふりをする。

『俺も、美琴に出会えてよかった。』


そう言うと、美琴は嬉しそうに笑ってくれた。

ああ、なんて幸せなんだろう。


その後、俺の指導の元、美琴は記念すべき第一回目の洗濯をしたのだった。

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