第11話-初めての洗濯2
『あ……あぁ、そうなのか。』
モーターに擬態した心部辺りがホワンと温かくなるのを感じる。変な感覚だが決して嫌じゃない。うずうずするような、ソワソワするような。
使われる事が嬉しくて仕方ない。しかも決して穏やかな嬉しさではなく、飛んだり跳ねたり身体全体で嬉しさを表現したい、そんな嬉しさだ。“天にも昇る”とはこういう時に使う表現かもしれない。
そしてハッとする。
待て待て待て。俺はもう九百歳を優に超えてるんだ。言ってしまえばシニアなのだ。
嬉しさに飛び跳ねて喜ぶなんて歳でも無い。
落ち着け。チャームのせいで感情の振り幅が大変な事になっている。
『じゃ、じゃあとりあえず、その籠は下に置いて、洗剤を……』
「はい!」
今時珍しい粉洗剤。銘柄はよく見る王手洗剤メーカーのものだ。
「中に計量用の匙があるみたい。」
ウキウキと箱を開けて中身の洗剤を取り出そうする美琴を見ていると、箱を開けて粉に埋まった匙を取り出そうとしている。
その様子を見ていると、箱を掴んでいた手がツルリと滑って洗剤の箱が落下した。
「あ。」
『あッ』
俺は咄嗟に両手を伸ばして落下を防止しようとするが、分身体は実体化しておらず、スカッと素通りして無惨にも白い粉を撒き散らし、琴美の色白の素足にも粉が掛かってしまった。
「…………」
二人で床を眺めていたが、ふと美琴の反応が無い事に気が付く。
もしや怒らせてしまっただろうか……。
落としたわね!お仕置きよ!!なんて(可愛らしく)怒られたらどうしよう……。その時は甘んじてそのお仕置きを受けるしかない。
ちょっと楽しみだったりする。チャームとは本当に恐ろしい。
恐る恐る見上げると、美琴は眉尻を下げて栗色の瞳にいっぱいの涙を溜めていた。
「……うぅ。ごめんね。全部こぼしちゃった。」
その姿にギョッとしてワタワタと美琴を励ます言葉を探す。
『あ、あの!大丈夫だぞ!』
「ふぇ?」
落ち込んだ様子の琴美はきょとんとしている。
魔法なんて、五十年使ってないのだが。スッと影の様な手を広げてコマンドワードを声に出す。
『“ステータス”・“魔法一覧”』
そう言うと、半透明のウインドウがパパパパッと俺と美琴の周りに広がる。
『美琴、今この辺に何か見えるか?』
一応、異世界人であれば見えるものだが、琴美には魔法陣も見えていないので聞いてみる。
琴美はきょとんとして首を傾げた。
「何があるの??」
それを聞いて、俺はにこりと笑う。
『ん。わかった。見える様にする。“ウインドウ”・“魔法”・“可視化”』
そう言うと、美琴にも俺の見ている物が見えたようで驚いたように宙を見ていた。
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