第10話-初めての洗濯1

その日の夜、俺のとこに洗濯籠を抱えた美琴がやってきた。

「ねぇ濯ちゃん」

『ん?なんだ?』

美琴が来ると嬉しくて、ヒョコリと洗濯機の蓋から顔を出す。いや違う。嬉しいとかじゃない。いや、嬉しいんだけど、それは使役魔としての性なのだ。


「あの、お洗濯……したいんだけど。そこに入れても大丈夫?」


洗濯!!!?

俺はパッと嬉しげに目を細めて美琴を見上げると、洗濯槽の蓋をガパッと蓋を開ける。あー!尻尾があれば振り千切れんばかりに振っていたらだろう!!


『もちろん!』

「でも、そこは濯ちゃんのお家なんでしょ?ぐるぐる回しちゃって大丈夫?」


そう言われて、ピタリと止まる。


ああ、そうだ。俺はここに住むオバケ設定だった。

俺の本体こそがこの洗濯機で、俺の口の中で洗濯するのだ。勿論機械に擬態しているので、唾液とか口臭とか、そういう生物めいたもの無いのだが、ただこの真実は、“物”としての価値を奈落の底へと貶めてしまう真実だった。

誰も口の中で洗濯した物なんて使いたくないだろうという話だ。


ならば、ここに住んでいるオバケという設定は継続した方が良さそうだ。


『大丈夫だぞ?ほら!』

俺は、パタンと蓋を閉じて洗濯機の中に入ると、洗濯槽ではなく、隣の脱水槽から顔を出した。

『これなら邪魔にならないだろ?』

目を細めて笑いながら彼女を見上げると、花が咲いたように微笑んでくれる。

「濯ちゃんありがとう。じゃ、ここに洗濯物を入れたらいいのね。」

『そうそう。二層式洗濯は初めて使うのか?』

「初めてよ。使い方教えてくれる?」


口元で手を合わせて、おっとりした可愛らしい顔が小首を傾げてお願いしてくる。


はぁ。俺はどうしたらいいんだ。主人が可愛くて可愛いくて仕方がない。


『洗濯は俺が洗っとく。美琴は忙しいだろう?この家だって、便利な作りでもないんだし。』

「いいえ!使ってみたいの!ほら!洗剤だって濯ちゃん用に粉末買ったんだから!」

キラキラと目を輝かせなながら、真新しい四角い箱の洗剤を見せながら、俺に期待の眼差しを向ける美琴に、言いようの無い幸福感を感じる。

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