バハルの後悔①

◇◆◇◆


「────という訳で、世界の滅亡を後押ししていたのだけど……ある日、突然過去に戻ったの。最初は夢かと思ったわ。でも、大木に刻まれた傷の数を数えてみると、確かに十一年前で……」


 困惑気味に逆行当初の状況を語り、バハルはペシペシと前足で目元を叩いた。


「とりあえず、ベアトリス様の居る世界を壊す訳にはいかないから、直ぐに気持ちを切り替えた。でも、私達全員まだ情緒不安定で……このままだと、無意識に暴走してしまう恐れがあった。だから、比較的落ち着いている私を除き、他の管理者は眠りについたの」


 眠りについている理由は、心を整理するためだったのね。

精霊って、基本睡眠を取らなくてもいい生物だと聞いていたから甚だ疑問だったけど、納得したわ。


 『人間で言う“寝て忘れよう”という感覚に近いのかな?』と思いつつ、私は居住まいを正した。

こんなに真面目は話をパジャマ姿で聞いてしまったことを後悔しながら、コホンッと一回咳払いする。


「バハル、話しづらいことを打ち明けてくれてありがとう。実を言うとね、私も前回の記憶を持っているの」


「ほ、本当……!?」


「ええ。他にも何人か居るわよ。名前までは言えないけど……」


 『本人に確認を取ってからじゃないと』と述べる私に、バハルは一つ息を吐く。


「大丈夫よ、知っているから」


「えっ?」


「あの腹黒……じゃなくて、皇子でしょう?」


 確信を持った様子でそう言い、バハルはゆらりと尻尾を振った。


「これは後で話そうと思っていたんだけど、昨日少し話したの。彼が私を迎えに来た時に。いい加減、色々ハッキリさせたくて……」


「えっと、それは……あの……」


「あぁ、安心して。喧嘩はしてないから」


 『言い合いくらいはしたけど』と苦笑しつつ、バハルはピンッと背筋を伸ばした。


「最終的に『お互い、昔のことは水に流して力を合わせよう』ということで、和解したの」


「それなら、良かった……」


 もし決裂していたらどちらにつけばいいのか分からなかったため、私は心底安堵する。

────と、ここでバハルが少し身を乗り出してきた。


「それでね……出来れば、ベアトリス様の話も聞きたいのだけど」


 嫌なことを思い出させてしまうのが気に掛かるのか、バハルはかなり慎重に話を切り出す。

『無理はしなくていいから』と繰り返し、じっとこちらの顔色を窺った。

気遣わしげな視線を送ってくるバハルの前で、私はスッと目を細める。


「聞いていて気分のいい話じゃないけど、それでも良ければ」

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