貴方の居ない世界《バハル side》②

「私達も気持ちは同じですから……それで、何をすれば?」


 じっとベアトリス様の顔を眺めながら問い掛ける私に、男性は少しばかり警戒心を緩める。

少しは信用してくれたらしい。


「ベアトリスの亡骸を守ってくれ」


「えっ?そ、そのためだけに精霊と契約を……?」


「ああ。可愛い娘の亡骸を適当な場所に置いていく訳には、いかないからな。持ち歩いて、見世物にするのも気が進まない。だから、信用出来る実力者に預けたかったんだ」


 『契約精霊なんて、特に適任だろう?』と言い、男性はそっとベアトリス様を地面に置いた。

と同時に、私は慌てて祭壇のようなものを作り、周囲に花を咲かせる。

さすがに地面へ放置するのは、忍びなくて。

他の管理者達も温度を調節したり、風の方向を変えたりと忙しそうだった。


「……ありがとう」


「いえ、これくらいは……それより、本当にそれだけでいいんですか?私達は季節の管理者と言って少し特殊な精霊なので、かなり役に立ちますよ」


 四季を司りし天の恵みに出来ることが、これだけなんて……虚しすぎる。

たとえ、自己満足でもいいから彼女のために何かしたかった。


「最優先事項はベアトリス様の亡骸の保護だとしても、他に何かありませんか?私達もベアトリス様の仇を打ちたいんです」


「なら……自然災害を起こしてくれ。もちろん、無理のない範囲でいい」


 『無茶をしてベアトリスの警護が疎かになっては困る』と述べ、男性は立ち上がった。

今にも旅立ちそうな彼を前に、私は慌てて一歩前へ出る。


「分かりました」


 ────と、首を縦に振ってから数日。

私達季節の管理者は男性から名をもらい、精霊として本領を発揮した。

場所の制約がなくなったおかげで随分と身軽になり、あちこちに厄災を振り撒く。

無論、ベアトリス様の亡骸の保護を優先しながら。


「世界の理たるベアトリス様の痛みを知りなさい」


 そう言って派手な地震を巻き起こし、私は着実に破滅の道へ進んでいく。

他の管理者も同様に。

自然を損なう行為は自傷に他ならないが、それでもいい。


「ベアトリス様はもっと痛くて、怖かった筈……」


 ヒビ割れた大地を駆け抜けながら、私は胸がいっぱいになった。

逃げ惑う人間達を前に、私は『こんな世界、さっさと滅んでしまえ』と願う。

憎しみとも悲しみとも取れない感情に突き動かされるまま、私はまた世界の運命を呪った。

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