拒絶《ジェラルド side》②
「少し長引きそうだからベアトリスの顔を一度見ておこうと思い、こちらに来たが……もう我慢ならない。我々は即刻ここを立つ」
『調査なんてやっていられるか』と吐き捨て、公爵は私を投げ飛ばした。
ドンッと床に尻餅をつく私の前で、彼はベアトリス嬢に近づく。
「大丈夫か?ベアトリス。怪我は?」
「あ、ありません……」
「なら、いいが……かなり顔色が悪いな」
ベアトリス嬢の前で素早く跪き、公爵は優しく彼女の頬を撫でる。
先程まで、息が詰まるほどの威圧を……殺気を放っていたのに。
「ベアトリス嬢、公爵。本当にすまない。私が傍を離れなければ、こんなことには……」
「い、いえ!私が悪いんです!バハルの無事を確かめたいって、言ったから……!」
『自分のせいです!』と繰り返し、ベアトリス嬢は公爵の袖を掴んだ。
いや、摘んだと言った方がいいかもしれない。
凄く控えめな触り方だったから。
でも、引っ込み思案な彼女にとってはこれが精一杯の意思表示。
それを理解しているから、公爵も僅かに態度を軟化させた。
「事情は大体、分かった。悪いようにはしない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。だから、安心しなさい」
よしよしと頭を撫で、公爵はおもむろにベアトリス嬢を抱き上げた。
と同時に、第一皇子へ視線を向ける。
「バハルをこちらへ」
「あ、ああ」
促されるまま歩を進める金髪の青年は、ベアトリス嬢へキツネを手渡す。
『ちなみに無傷だったよ』と述べる彼に、彼女は安堵の息を漏らした。
「ありがとうございます」
まるで宝物のようにキツネを抱き締め、ベアトリス嬢は表情を和らげる。
僕と二人きりだった時と違い、随分とリラックスしており安心感に包まれていた。
「べ、ベアトリス嬢……」
「ジェラルド・ロッソ・ルーチェ、第一皇子の名において……いや、皇帝エルピス・ルーモ・ルーチェ陛下の代理として、命じる。何も喋るな」
皇帝代理として日々公務を行っている第一皇子だからこそ使える権利を行使し、僕から発言権を取り上げた。
珍しく厳しい表情を浮かべる金髪の青年は、僕の襟首を掴んで引きずっていく。
「陛下に本件の報告を。あと、ジェラルドを離宮に閉じ込めておいて。見張りの者は最低でも、十人つけるように」
僕の実力に気づいたからこその措置を言い渡し、第一皇子は騎士へその後の対応を任せた。
『はっ』と声を揃えて返事する彼らの前で、金髪の青年は襟首から手を離す。
と同時に、扉を閉めた。
今回はまさに大失敗だな……目的を達成出来なかったどころか、こちらの奥の手を晒すことになるなんて。
いや、その覚悟はしていた。
ただ、ベアトリス嬢を味方につけられるなら安いものだと考えていたんだ。
まあ、見事に全部ダメになったが。
『今後、更に監視を強化されるだろうな』と嘆息し、僕は筋書き通りにいかない現状を憂う。
でも、やってしまったものはどうしようもないので早々に思考を切り替えた。
とりあえず、今回の一件を通してベアトリス嬢の性格や僕への認識は理解した。
これを踏まえた上で、策を練ろう。
もちろん、もう手篭めにすることは考えていない。
さすがにちょっとリスクが高すぎるから。
『我ながら、あれは血迷っていたな』と思いつつ、僕は騎士に連れられるままこの場を後にした。
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