厄介なやつ①
「あの……ところで、どうしていきなり魔物が現れたんですか?」
ずっと気になっていた疑問を投げ掛け、私はティーカップを手に持つ。
『魔物って、普通郊外に居るんじゃないの?』と思案する私の前で、グランツ殿下は小さく肩を竦めた。
「それは私にも分からない」
「一つ確かなのは────自然発生したものじゃないってことだな。これは俺の予想だが、恐らく」
そこで一度言葉を切ると、ルカはおもむろに窓の外を見た。
「魔物を皇城に連れ込んだ存在が居る」
「!?」
ハッと息を呑む私に対し、グランツ殿下は困ったような表情を浮かべている。
恐らく、彼もルカと似たような考えを持っているのだろう。
『ルカも同じ意見か……』と肩を落とし、嘆息していた。
そりゃあ、この騒動を企てた人物が居るなんて考えたくないわよね。
私だって、偶然が重なった結果の事故と思いたいわ。
『誰がこんなことを……』と眉を顰める中、グランツ殿下は不意に顔を上げる。
「まあ、とりあえず死者は出なかったんだし、いいじゃないか」
「そうですね────って、あれだけ大騒ぎになっていたのに死者0だったんですか?」
「ああ、公爵の迅速な対応のおかげだよ。護衛として来ていたサンクチュエール騎士団の者達も、尽力してくれたようだし」
我が家の馬車の警備に当たっていた騎士達を示唆し、グランツ殿下は『凄く助かった』と褒めた。
その瞬間────私はあることに気づく。
「で、殿下……」
「ん?なんだい?」
「馬車にバハルを残してきたんですが、無事ですかね……?」
精霊と言えどあんな怪物に襲われれば、無事では済まないんじゃないかと不安になる。
サァーッと青ざめる私を前に、グランツ殿下とルカは顔を見合わせた。
「いや、多分……というか、絶対に無事だと思うよ」
「お前は精霊の力を甘く見すぎだ」
「サンクチュエール騎士団も一緒に居ることだし、命の危機に瀕するようなことはないんじゃないかな?」
「そう、でしょうか……」
不安を拭い切れず言葉を濁すと、グランツ殿下はおもむろに席を立った。
「もし、不安なら連れてくるよ。ちょっと待っていて」
「あっ、それなら私も……」
「いや、ベアトリス嬢はここに居ておくれ。魔物は粗方片付いたけど、まだどこかに潜んでいるかもしれないからね。それに瓦礫だってあるし」
『女の子を出歩かせるのは危険だ』と話し、グランツ殿下は部屋を出ていく。
追い掛けようか、どうか迷っている女性騎士を目で制しながら。
『あれ?護衛は?』と思ったものの、心配無用のようで……廊下に居る騎士達を引き連れて、歩いていった。
「あいつもお前に甘いよな。精霊なんて、放っておけばいいのによ」
『どうせ、無事なんだから』と零し、ルカは小さく肩を竦める。
でも、こういう行動に出られたのはきっと彼のおかげだ。
だって、ルカが私を守ってくれると信じてなかったら、グランツ殿下はここに残った筈だから。
私のワガママを叶えたのは、ある意味ルカとも言える。
まあ、本人は『そんな訳ないだろ』と言って認めてないだろうが。
『屁理屈にも程がある!』と喚くルカを想像し、私は少しだけ頬を緩めた。
その瞬間────部屋の明かりが消え、何かの倒れる音がする。
「な、何……!?」
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