緊急事態③

「この調子だと、一時間と待たずに討伐を終えるぞ」


 ────というルカの予想は見事的中し、十五分ほどで全ての魔物を狩り終えた。

が、父はまだ戻ってこない。


「すまないね、ベアトリス嬢。まだ残党の捜索と魔物の侵入経路の割り出しが、残っているんだ。本来、これらの仕事は我々だけで行うべきなんだが……公爵は誰よりも魔物に詳しいからね。協力を頼んだんだ」


 『だから、もう少しだけ我慢してほしい』と言い、グランツ殿下はパーティー会場を後にする。

さすがに大穴の空いたところで、ずっと待機させる訳にはいかなかったのだろう。

『まだ時間が掛かりそうだし』と思案する中、帰っていく貴族達とは真逆の方向へ歩を進める。


「そういう訳で、しばらくここで待っていてほしい」


 そう言って、グランツ殿下は見るからに豪華そうな部屋へ案内した。

『ここって、貴賓室なんじゃ……』と気後れする私を他所に、彼はさっさと扉を開ける。

すると、白や緑で彩られた室内が見えた。


「ここにあるものは、全て好きに使ってくれて構わないよ。無論、壊したっていい」


「い、いや、そんな……!」


「はははっ。冗談だよ。まあ、本当に破壊したとしても公爵の活躍を考えれば、全然問題ないけどね」


 こちらの緊張を和らげるためか、グランツ殿下は『自宅のように寛いでおくれ』と告げる。

────と、ここでワゴンを押した侍女が現れた。


「ただ待つだけというのも退屈だろうし、お茶でも飲みながら少し話そう」


 そう言うが早いか、グランツ殿下は中へ入り率先して寛ぎ始める。

『ベアトリス嬢を理由に、ゆっくり出来て最高』と呟く彼を前に、侍女はいそいそとお茶を準備した。

お菓子も持ってきたのか、ほのかに甘い香りがする。


「ほら、突っ立ってないでこっちにおいでよ」


「は、はい」


 おずおずと室内へ足を踏み入れ、私は一先ず殿下の向かい側のソファへ腰を下ろす。

すると、直ぐにお茶とお菓子を用意された。

『ありがとうございます』とお礼を言う私に、侍女はニッコリ微笑んで退室する。

その代わりとして女性騎士が入室し、警護を担当してくれた。


「あの……ところで、どうしていきなり魔物が現れたんですか?」

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