緊急事態①

「面倒なことになる前に止めてくるよ。だから、二人はゆっくりパーティーを楽しんでくれ」


 『せっかくのデビュタントなんだから』と言い、グランツ殿下はジェラルドの居る方向へ足を向けた。

令嬢達のアプローチを尽く躱しながら前へ進んでいき、さっさとジェラルドを回収。

その手際の良さには、思わず感心してしまった。


 何はともあれ、これで一安心……かしら?


 玉座に戻ったグランツ殿下とジェラルドを見つめ、私は少し肩の力を抜く。

あそこなら貴族に囲まれる心配もないため、グランツ殿下がジェラルドをしっかり監視出来るだろう。

『ダンスも終わった以上、玉座を離れる理由もないだろうし』と考え、私は普通にパーティーを楽しんだ。

時々、父が貴族を……特に歳の近そうな男性を睨みつけていたけど。

比較的平和に過ごせたと思う。


「そろそろ、帰るか」


 十時を知らせる鐘の音を聞き、父は『ベアトリスの生活リズムが……』と気に掛ける。

────と、ここで銀の鎧に身を包んだ騎士が駆け込んできた。


「────大変です!皇城に魔物が……」


 『魔物が現れました』と続ける筈だっただろう言葉は、突如巻き起こった爆風によって遮られる。

『キャーーー!』とあちこちから悲鳴が上がる中、父は鋭い目付きで西側の壁を睨みつけた。

かと思えば、彼の体から白い光が漏れ出る。


 あれは────神聖力……!?


 神より賜りし聖なる力であるソレは、聖剣と同様選ばれた者しか使えない上、いざという時しか解放されない。

つまり────今はそれだけ不味い状況ということ。


「離れるな、ベアトリス」


「は、はい」


 不安に駆られながらも大きく頷くと、父はそっと肩を抱き寄せてきた。

漏れ出る力をそのままに聖剣を引き抜き、身構える。

その瞬間、白い光がここら一帯を包み込んだ。

と同時に、西側の壁が破壊される────黒くて大きな生物によって。


 あれが魔物……世界の穢れを具現化した存在。


 泥のようにドロドロしていて生き物の形容をしていないソレに、私は恐れを抱く。

『お父様はこんな化け物と日々戦っているの……?』と青ざめる中、魔物はこちらへ手を伸ばした。

が、神聖力によって阻まれる。


「普通の魔物であれば、触れるだけで死に至るんだが……こいつは直接切らないとダメか」

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