ダンス③
「はい、喜んで」
ちょっと照れ臭い気持ちになりながら手を取ると、父はスクッと立ち上がる。
そして、音楽に合わせて踊り始めた。
お父様と実際に踊るのは初めてなのに……身長差だってあるのに、息ピッタリ。全然苦じゃない。
『お父様のリードが上手いのかな?』と思いつつ、私はあっという間に最初のワルツを踊り終える。
通常であればここでパートナーを交換し、直ぐに二曲目へ移るのだが……
「ベアトリス嬢、良ければ私と一曲……ひっ!」
父の無言の圧により、男性陣は慌てて身を引いた。
『すみません!また今度!』と言い残し、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
おかげで、私達の周りだけ誰も居ない状態となった。
のだが、そこへ近づいてくる者が一人。
「やあ、二人とも」
そう言って、ニッコリ微笑むのはつい先程まで令嬢達に取り囲まれていたグランツ殿下だった。
光に反射して煌めく金髪を揺らし、私達の傍までやってくる彼はアメジストの瞳をスッと細める。
「さっきはウチの弟がすまなかったね」
「そう思うなら、ベアトリスに近づかないよう言い聞かせてください」
『迷惑です』とハッキリ意思表示する父に、グランツ殿下は苦笑を漏らした。
「一応、注意はしてあるんだよ。何度もね。でも、変なところで頑固というかなんというか……淡い希望を抱いているんだよ。子供は無謀というものを知らないからね」
『何事も上手くいくと錯覚しているのさ』と語り、グランツ殿下は少しばかり表情を曇らせる。
腹違いの弟とはいえ、血の繋がった兄弟。
破滅の道へ片足を突っ込んでいる状態は、見るに堪えないのだろう。
『今、ここで引き返してくれれば……』と願っているグランツ殿下に、私は眉尻を下げた。
私だって、同じ気持ちだから……今は恐怖心しかないけど、一度は愛した人。
不幸になってほしいとは、思わない。私の知らないところで、ただ穏やかに暮らしてほしい。
前回はさておき、今回はまだ大きな過ちを犯していないのだし。
「おっと……あれはまだ諦めていない顔だね」
貴族と話しながらこちらの様子を窺っているジェラルドに気づき、グランツ殿下は嘆息する。
『あれだけ言われて、まだ懲りていないのか?』と。
「面倒なことになる前に止めてくるよ。だから、二人はゆっくりパーティーを楽しんでくれ」
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