油断禁物《グランツ side》①

◇◆◇◆


 ほう?驚いたな。公爵の口から、そんな言葉が出てくるとは。

迷わず、帰宅を早めると思ったのに。


 『公爵も成長したね』と微笑ましく思う中、彼はベアトリス嬢の手を引いて歩き出す。

それに続く形で、バハルやイージス卿も歩を進めた。


「ベアトリス、これは月華草げっかそうだ。風邪薬の材料になる。それでこっちは────」


 近くにある植物を手当り次第説明し、公爵はひたすらベアトリス嬢の関心を引く。

きっと、彼なりにベアトリス嬢の外出をいい思い出にしようと必死なのだろう。


 植物なんて、最近まで全く興味なかったのに……この日のために勉強してきたのかな?

だとしたら、本当に親バカだね。


 『ただでさえ、忙しかっただろうに』と苦笑する中、ベアトリス嬢はキラキラと目を光らせた。


「お父様は博識ですね。とっても、勉強になります」


 『凄い凄い』と心底感心している様子のベアトリス嬢に、公爵はほんの少しだけ表情を和らげる。

喜んでいる娘を見て、誇らしい気持ちになっているようだ。

『勉強してきた甲斐があったね』と思いつつ、私はゆったりとした足取りで彼らを追い掛ける。

その際、フサフサと揺れるピンク色の尻尾が目に入った。

たまたまなのか、わざとなのか……私とベアトリス嬢の間に割って入る精霊を前に、スッと目を細める。

と同時に、さりげなく黒髪の男性へ近づいた。


「ねぇ、ルカ。精霊のことだけど」


 の拡散を風魔法で防ぎつつ、私は少しばかりトーンを落として話し掛ける。

皆、ニコニコ笑うベアトリス嬢に釘付けとはいえ、油断は出来ないから。

『少なくとも、バハルはこっちに意識を向けているみたいだし』と考える中、ルカはチラリとこちらを見た。


「分かっている。逆行のことだろ?多分、あの様子だと何かしら掴んでいるな」

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