精霊③

「ですから、今は……今だけは私に独占させてください、ベアトリス様のことを────今度こそ・・・・、守ってみせますから」


 今度こそ……?まるで、一度守れなかったみたいな言い方をするのね。

単なる言葉の綾かしら?


「ベアトリス様、これからどうぞよろしくお願いします」


「え、ええ、こちらこそ。バハルの契約者になれて、とても光栄です」


 反射的に言葉を返すと、バハルはうんと目を細めた。

黄金の瞳をこれでもかというほど、輝かせながら。


「いえいえ、それはこちらの言葉です。あと、敬語はどうかおやめください。我々季節の管理者は四季を司りし天の恵みの手足であり、下僕しもべであり、手段ですから。そのように畏まる必要はありません」


 まるで自分のことを物のように扱い、バハルは『もっと気楽に接してください』と述べる。

こっちが申し訳なくなるほど謙るキツネに、私は眉尻を下げた。


「それはえっと……難しいかもしれません。私にとって、精霊はとても凄い存在で……一種の憧れですから」


「身に余るお言葉です。ですが、我々にとっても四季を司りし天の恵みは崇高な存在であるため、そのように畏まられると気後れしてしまい……」


 困ったように笑うバハルに、私は『いや、でも……』と食い下がる。

その応酬が暫く続き、着地点を見極めていると────グランツ殿下が身を乗り出してきた。


「いっそのこと、二人とも畏まった態度をやめるというのはどうだい?」


「「えっ?」」


「互いに友達のように振る舞えばいいよ」


 『どうだ、名案だろう?』とでも言うように、グランツ殿下は胸を反らす。

喧嘩両成敗のような展開に、私とバハルは顔を見合わせた。


「えっと……私はバハルさえ良ければ、それで……」


「正直、恐れ多いですが……ベアトリス様が敬語をやめて下さるなら、その……努力します」


「じゃあ、決まりだね。今この瞬間より、二人は友人だ。気楽に接したまえ」


 『はい、これで解決』と笑い、グランツ殿下は身を起こした。

かと思えば、雲一つない青空を見上げる。


「さて、そろそろ引き上げようか。バハルの話によると、他の三名は眠っているみたいだし」


 『行っても会えないだろう』と主張し、グランツ殿下は父の方を振り返った。

すると、父は少し迷うような動作を見せてからこう答える。


「いえ、せっかくの外出ですからもう少しここに居ましょう。辺りを散歩するだけでも、ベアトリスにとっては貴重な体験になると思います」

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