精霊②

 ハッとして目を見開く私は、まじまじとキツネを見つめる。


「い、今バハルって……じゃあ、この声は……」


「はい、わたくしめの声にございます」


 優雅にお辞儀しニッコリ微笑むバハルに、私はもちろん……父やグランツ殿下も目を剥いた。


「契約したら精霊が人間の言葉を話せるのは知っていたが、まさかこんなに流暢に喋れるとは……」


「大抵はカタコトだって、聞いたんだけど……」


 『個人差あるのかな?』と頭を捻るグランツ殿下に、バハルはチラリと視線だけ寄越す。


「私は千年以上生きた精霊なので、特別なのです」


「へぇー。そんなに長くここに居たんだ。他の誰かと契約する気はなかったの?」


 僅かに身を屈め、グランツ殿下は『ずっと同じ場所に留まるのは退屈だろう?』と問うた。

というのも、精霊は基本生まれた場所から動けないから。

どういう理屈かは分からないのだが、生まれた場所から生成されたマナ以外吸収出来ないのだ。

精霊にとって、マナは命の源そのもの。ないと困る。

でも、人間と契約した場合は別で……契約者から魔力、もといマナを吸収出来るようになるため自由に動けた。


わたくし達季節の管理者は、四季を司りし天の恵みと出会うため生まれてきました。他の者と契約し、この地を離れるなど言語道断です」


 少し眉間に皺を寄せながら、バハルは答える。

────と、ここでイージス卿が手を挙げた。


「あの!さっきから気になっていたんですけど、その『季節の管理者』とか『四季を司りし天の恵み』とかどういう意味なんですか!」


 心底不思議そうに首を傾げるイージス卿に、バハルは一つ息を吐く。

まずはそこからか、とでも言うように。


「季節の管理者は分かりやすく言うと、精霊を束ねる者達のことです。人間達は精霊王と呼んでいるようですが」


 『正式名称はこっちです』と語り、バハルはこちらを見つめる。


「それから、四季を司りし天の恵みは我々季節の管理者を従えることが出来る唯一の存在のことを指します」


「えっ……?」


「ベアトリス様のことですよ」


 ポスッと私の靴に前足を置き、バハルは穏やかに微笑んだ。


「ずっとずっとお待ちしておりました、私はもちろん────他の三名も・・・・・


「他の……」


「はい。あと、夏・秋・冬の管理者が居ります。ただ、今は三名とも深い眠りに入っていまして……接触するのは難しいかもしれません。ただ、そう遠くない未来に会える筈ですよ」


 『心配は要りません』と言い、バハルは膝に頭を擦り付けてきた。


「ですから、今は……今だけは私に独占させてください、ベアトリス様のことを────今度こそ・・・・、守ってみせますから」

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