油断禁物《グランツ side》②

「分かっている。逆行のことだろ?多分、あの様子だと何かしら掴んでいるな」


 バハルからの敵意を敏感に感じ取り、ルカは『ちょっと厄介かも』と零す。

嘗て精霊と私達は敵対関係にあったため、仲間割れの可能性を考えているのだろう。


「自我のある精霊は世界の理を無視出来るから、逆行の影響を受けなかったのかもしんねぇ……」


「だとしたら、仲良くなるのはやっぱり難しいかな?」


「さあな。でも、前みたいに敵対することはないんじゃないか?────ベアトリスが生きている限り」


 無邪気に笑う銀髪の少女を一瞥し、ルカは後頭部に手を回した。

と同時に、空を見上げる。


「そういう訳で、第二皇子のことはしっかり見張っておいてくれよ」


「分かっているさ。前のようなヘマはもうしない」


 うっかり公爵家の訪問を許してしまったことを思い出し、私は嘆息する。

急ぎの件だったとはいえ、見張りの者が来てから席を立つべきだった、と。


「まあ、今のジェラルドは完全に身動きを取れない状況だから、どうすることも出来ないだろうけど」


「なんだ?どっかに監禁したのか?」


「人聞きの悪いことを言わないでおくれよ」


 『ルカは私を何だと思っているんだ?』と嘆きながら、小さくかぶりを振った。


「ただ、公爵家の件で謹慎を言い渡されているだけだよ。さすがの父上も『看過出来ない』と仰っていたからね」


「公爵様にそっぽを向かれたら皇室と言えど、ただじゃ済まねぇーもんな」


「ああ。特に今は魔物の動きが活発になっていて、公爵の助力なしでは防衛を維持出来ないから……他国へ亡命されたり、独立されたりしたら本気で困る」


 『世界滅亡云々の前に帝国が滅びるよ』と語り、私は額に手を当てる。

だって、公爵の場合ベアトリス嬢のためならそれくらいやってのけそうだから。

『ベアトリスの過ごしにくい国など、いらん』とか、何とか言って……。

最悪のシナリオを脳内で思い描き、私は少しばかり血の気が引いた。


 ……ジェラルドのことはもっと注意深く、見ておこう。


 『油断禁物だ』と再度自分に言い聞かせ、私はベアトリス嬢の保護と守護を改めて誓った。

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