外出①

「ベアトリスと初めての外出……これは最高の思い出になるよう、準備しないといけないな」


 ────と、決心するや否や……父は急いで書斎へ戻った。

それも、窓から……。

『さっき、注意されていたのに』と苦笑する中、微かにユリウスの怒鳴り声……いや、懇願が耳を掠める。


 えっと……とりあえず、山場は越えたと見ていいのよね?


 『結局、撤回はなかったし……』と考えつつ、私は弓の練習に戻る。

────そして、グランツ殿下やイージス卿からアドバイスを貰い、少しずつ腕を上げていくこと二週間……野外研修を行う日が来た。

夜明けに合わせて身支度を済ませ、玄関前に集まった私は思ったより少ない面子に首を傾げる。


「グランツ殿下、護衛などはいらっしゃらないんですか?」


 見送りのユリウスも含めて五人しか居ないため、私は『ちょっと不用心なんじゃ?』と考える。

だって、ここには皇族も居るのだから。


「あぁ、護衛とは現地集合する予定なんだよ」


「えっ?どうしてですか?」


 『道中の警備は?』と困惑する私に、グランツ殿下は小さく肩を竦めた。

かと思えば、目の前にある馬車を指さす。


「あれは魔道具の一種で、空を飛べるんだ。だから、道中の警備はほとんど必要ない。というか、出来ない」


「確実に定員割れするからな。まあ、あの馬車には認識阻害の加工も施されているし、護衛なんか居なくても大丈夫だろ」


 グランツ殿下の横に並ぶルカは、『地上よりずっと安全』と零す。


「何より、こっちには光の公爵様も居るんだ。問題ねぇーって」


 『世界を滅ぼせる力の持ち主なんだぞ』と語るルカに、私は思わず納得してしまった。

確かにそれなら問題なさそうだ、と。


「ベアトリス、こっちへ来なさい」


 馬車の前で待機する父は、こちらに手を差し伸べる。

どうやら、乗車を手伝ってくれるらしい。


「はい、お父様」


 なんてことない動作が、優しさが、気遣いが嬉しくて……私はついつい笑みを漏らしてしまう。

以前までなら考えられなかった光景を前に、ゆっくりと歩を進めた。

浮き立つような気分になりながら父の手を取ると、そのまま抱き上げられる。

てっきりエスコートしてくれるものだと思っていたため、私は一瞬固まった。

『ん……?あれ?』と混乱する中、父は馬車へ乗り込み、座席へ腰を下ろす。

そうなると、必然的に私は父の膝の上へ座ることになる訳で……。


「公爵様……いえ、何でもありません。もう好きにしてください」


 『公爵様なら死んでも落とさないでしょうし』と呟き、ユリウスは小さくかぶりを振った。

もう何もかも諦めた様子の彼を他所に、グランツ殿下とイージス卿が向かい側の座席へ腰掛ける。

一応、ルカも中に居るが……体質上、座れないので棒立ちだった。


「では、皆さんお気をつけて。くれぐれも、無理はしないようにしてくださいね」

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