外出②

「では、皆さんお気をつけて。くれぐれも、無理はしないようにしてくださいね」


 『何かあれば、連絡を』と言い残し、ユリウスは馬車の扉を閉める。

と同時に、数歩後ろへ下がった。


「行ってらっしゃいませ」


 そう言って頭を下げるユリウスに、私達は『行ってきます(行ってくる)』と返す。

────と、ここで父が天井から伸びる紐を腕に巻き付けた。

『なんだろう?』と疑問に思っていると、馬車は急に動き出す。

数十メートルほど普通に地面を走るソレは、徐々に浮き上がり、やがて空へ羽ばたいた。


「ほ、本当に空を飛んだ……」


 別にグランツ殿下の言葉を疑っていた訳じゃないが、なんだか夢のようで……私は感嘆の息を漏らす。

と同時に、理解した。

恐らく、あの紐は魔力を供給するためのもので今まさに父が魔力を込めているのだろう、と。


 こんなに大掛かりな魔道具を動かすには、かなりの魔力を消費する筈。

それなのに、顔色一つ変えないなんて。


 『お父様の魔力量はどうなっているのかしら?』と思案する中、ふと朝日を目にする。

山の後ろから徐々に顔を出すソレを見つめ、私は瞠目した。


「綺麗……」


 神秘的とも言える光景に、私はついつい見入ってしまう。

そのまましばらく放心していると、グランツ殿下とイージス卿の笑い声が耳を掠めた。


「ベアトリス嬢は本当に愛らしいね」


「いつも大人っぽいので、こういう反応は新鮮です!」


 『微笑ましい』と言わんばかりの表情を浮かべる二人に、私は羞恥心を擽られた。


 わ、私ったら子供っぽい対応を……中身は十八歳なのに。


 頬が熱くなっていく感覚を覚えながら、私は身を縮める。

────と、ここで父に頭を撫でられた。


「楽しいか?ベアトリス」


「えっ?あっ、はい。凄く楽しいです」


「なら、いいんだ」


 満足そうな顔でこちらを見つめ、父は窓の外へ視線を向ける。


「あの一番大きい山、見えるか?」


「はい」


 少し奥の方にある自然豊かな山を見据え、私は『あそこだけ、明らかに他と違うのよね』と考える。

何が、と問われたら答えられないが……どうも、違和感を覚えるのだ。

親近感とでも言おうか……。

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