父の説得③

 爽やかの一言に尽きるイージス卿の様子に、私は目を剥く。

『その場から一切動いていない私の方が疲れている……』と情けなく思う中、父が身を屈めてきた。

まるで、目線を合わせるかのように。


「ベアトリス」


「はい」


「精霊に会いたいか?」


 どことなく既視感を覚える質問に、私はなんだか嬉しくなった。


 お父様はいつも、私の意思を確認してくれる。

武器型魔道具の使用を許可する時だって、私に『どうしたい?』と尋ねてくれた。

それで、私が『練習してみたいです』と答えたら条件付きで許してくれたの。


 今でも鮮明に覚えている記憶を手繰り寄せ、私はじっと青い瞳を見つめ返す。


「お父様、私は精霊に会ってみたいです」


 逆行前、世界を滅亡させるためとはいえ、お父様に力を貸してくれた存在だから。

たとえ、縁を繋ぐことは出来ずとも一目見てみたかった。


「そうか……分かった。精霊に会うことを……野外研修・・・・を許可しよう」


 渋々といった様子で首を縦に振り、父は妥協する姿勢を見せた。

思わず表情を明るくする私に対し、彼はスッと目を細める。


「ただし────私も同行する。これが条件だ」


 案の定とでも言うべきか、父はこちらにも折れるよう求めてきた。

『ここまで譲歩したんだから』と訴えかけてくる彼の前で、私はチラリとグランツ殿下に目を向ける。

すると、苦笑しながら肩を竦める彼の姿が目に入った。

どうやら、父の同行を認める形で話がついているらしい。

『これ以上の交渉は無理そうだった』と口の動きだけで伝えてくる彼に、私は小さく頷いた。


「分かりました。お父様も一緒の方が心強いので、助かります」


 条件を受け入れる姿勢を見せると、父は僅かに目元を和らげる。


「そうだろう。私はこの世の誰よりも強いからな」


「はい。それにお父様とお出掛けするのは、初めてなので……」


「!!」


 ハッとしたように目を見開く父は、こちらを凝視した。

何やら衝撃を受けている様子の彼に、私はパチパチと瞬きを繰り返す。


「あっ、ちゃんと分かってますよ。あくまでこれは講義の一貫で、お遊びじゃないって」


 『ちゃんと勉強に集中する』と主張し、私は父の顔色を窺った。

まさか、外出許可を撤回するんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていると、父が何やら独り言を呟く。


「ベアトリスと初めての外出……これは最高の思い出になるよう、準備しないといけないな」

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