父の説得②

「公爵様がグランツの提案を尽く、却下している。あの分だと、精霊との接触はまだまだ先になりそうだぜ」


 『マジでこっそりやることになるかもな』と言い、ルカは肩を竦めた。


「まあ、公爵様の過保護っぷりは今に始まったことじゃないし、気長に待つか。武器型魔道具の練習を提案した時だって、一週間くらい説得に時間が掛かったし」


 私の手にある白い弓を一瞥し、ルカは『あと何週間掛かることやら』と嘆息した。


「仮に許可されたとしても、色々条件や制約はあるだろうな。武器型魔道具のときみたいに」


 やれやれとかぶりを振るルカに対し、私は苦笑を浮かべる。

父に提示された約束事は確かに面倒かもしれないが、私にとっては愛情の裏返しだから。


 武器の種類を弓に限定したのは、使用者への危険が比較的少ないから。

イージス卿を練習に参加させるよう、言ったのも危険を減らすためだろう。

また、練習場所を中庭に指定したのは書斎から近く、逐一様子を確認出来るのが理由。

いざという時は窓から飛び降りて、駆けつけるつもりみたい。


 『書斎は四階なのに』と思案する中、不意に父がこちらを向いた。

かと思えば、窓を開けてこちらに手を伸ばす。


「きゃっ……!?」


 父の魔法か体が宙に浮き、私は反射的に声を上げた。

すると、直ぐに下ろされる。

『あれ?』と首を傾げる私の前で、父は────四階から飛び降りた。それも、魔法を使わずに。


「お、お父様……!?」


 怪我するんじゃないかと気が気じゃない私は、不安を募らせる。

が、それは杞憂だったようで……父は華麗に着地した。

きちんと体を鍛えていたからか、怪我もない。

『よ、良かった……』と胸を撫で下ろす中、今度はグランツ殿下が降りてきた。

と言っても、父のような方法ではないが。

ちゃんと風魔法を使って衝撃を減らし、安全に地上へ降り立った。


「公爵、ユリウスから伝言だよ。『窓じゃなくて、玄関から外へ出てください』だって。もちろん、ベアトリス嬢を宙に浮かせて窓から招き入れるのも禁止」


「……後半の内容は胸に留めておく、とお伝えください」


「いや、直接言いなよ。私は伝書鳩か何かかい?」


「ユリウスはなんだかんだ口うるさいので、あまり話したくないんです」


「それを聞いたら、ユリウスは大泣きしそうだ」


 苦笑にも似た表情を浮かべ、グランツ殿下は『もう少し優しくしてあげなよ』と述べる。

が、父は何も答えなかった。


「そんなことより、ベアトリス」


「は、はい」


「少し話がある。練習を一度中断してもらっても、いいか?」


「もちろんです」


 ちょうど集中力が切れかかっていたこともあり、私は父の申し出を受け入れる。

と同時に、オレンジ髪の青年へ視線を向けた。


「イージス卿、少し休憩にしましょう」


「了解です!」


 ビシッと敬礼して応じるイージス卿は、即座に剣を仕舞う。

そして、こちらへ駆け寄ってきた。


 あれだけ動き回っていたのに、汗一つ掻いてない。

イージス卿にとって、アレは運動にすら入っていないのね。

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