魔道具③

『おや?もう成功したのかい?もっと、時間が掛かるものだと思っていたよ』


 音声も問題なく共有出来ているようで、グランツ殿下の笑い声が耳を掠める。

『ちゃ、ちゃんと出来た』と頬を緩める私の前で、彼はアメジストの瞳をスッと細めた。


『それじゃあ、しばらく通信状態を維持してみようか。三十分も経てば、魔力供給のコツを掴む筈だよ』


「はい、分かりました」


 ────とは言ったものの……なんだか、気まずい。

何を話せばいいのか、分からなくて……。


 これまではルカという共通の友人が居たから、問題なくコミュニケーションを取れていたけど……ルカは通信用魔道具に存在を認識されていないみたいなの。

つまり、話したり姿を見せたり出来ないってこと。

私がルカの通訳になれば、三人で話せなくもないけど……そんなことをしたら、グランツ殿下に失礼だと思う。

だって、貴方とは話したくありませんって言っているようなものだから。


 『気分を害しそう……』と悩み、内心項垂れていると────グランツ殿下が不意に口を噤んだ。

さっきまで、気を使って色々話してくれていたのに。

『さすがに疲れてしまったのか?』と疑問に思う中、彼は唇の下辺りをトントンと指先で叩く。


『ずっと言おうか、どうか迷っていたけど』


 そう前置きしてから、グランツ殿下は僅かに表情を引き締めた。

と言っても、口元の笑みはそのままだが。

でも、心から笑っている訳じゃないのは明白だった。


『ベアトリス嬢は何か……私に言いたいことがあるよね?』


「!!」


 ビクッと肩を震わせる私は、反射的に顔を反らしてしまった。

これでは、『はい、そうです』と言っているようなものだろう。


『屋敷で再会した時から、君はずっと私に何か言いたげだった。でも、言い出せなくて……気まずい様子だった』


 違和感を言葉にして吐き出し、グランツ殿下は頬杖をつく。


『無意識かもしれないけど、講義中はずっとルカの方を見ているし、私の話に乗っかることもほとんどない。もちろん、こちらから話を振った時は別だけど。とにかく、君は私を避けているように感じた』


「その……申し訳ありません」


『いやいや、謝ってほしい訳じゃないよ。ただ、ちょっと気になってね。ベアトリス嬢の場合、単なる好き嫌いで避けているというより、罪悪感や後悔で避けているように見えたから』


 さすがは第一皇子とでも言うべきか……こちらの心情をよく理解している。

『もうそこまで分かっているのか……』と肩を落とす中、グランツ殿下は僅かに表情を和らげた。


『私に言いたいこと、聞いてもいいかい?』


「えっと……」


『今は物理的に距離が離れているから、話しやすいと思うんだよね』


「それは……そうですけど」


『大丈夫。怒らないから、言ってごらん』


 優しい声色で話を促し、グランツ殿下はひたすらこちらの言葉を待つ。

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