魔力コントロール③

「────出来た!」


 まさかの一発成功に、私はキラキラと目を輝かせた。

興奮気味に後ろを振り返り、ソファの肘掛けへ腰掛ける父を見た。


「お父様、出来ました!今もほら!身体中をずっと流れています!」


「ああ、上手に出来たな。偉いぞ」


 よしよしと私の頭を撫で、父は『たった一日で習得とはな』と少し驚く。


「本来、もっと時間が掛かる筈なんだが……ベアトリスは筋がいいな。きっと、もう魔力の流れや動きを意識しなくても循環出来る筈だぞ」


「あっ……本当ですね」


 さっき父に話し掛けた時点で集中力は切れていた筈なのに、今もずっと循環し続けている。

これこそが完璧にマスターした証拠だった。


「これなら、明日から魔道具の発動練習も出来るかも」


 ほぼ無意識に独り言を零し、私は『やっと魔法を使えるのね』と歓喜する。

────と、ここで父が顔を覗き込んできた。


「講義で魔道具を使うのか?」


「あっ、はい。私の魔力には属性がないみたいなので魔法を使うには魔道具や精霊に頼るしかない、と言われたんです」


「なるほど」


 顎に手を当てて考え込む父は、穴が空くほどこちらを見てくる。

『な、なんだろう?』と頭を捻る私の前で、彼はおもむろに立ち上がった。


「魔道具は私の方で準備しよう。ベアトリスの使用するものに不備があっては、困るからな」


 『宝物庫にあるやつでいいか』と思案する父に、私は危機感を覚える。

だって、ルカの発言を思い出してしまったから。

『山ほど……持ってこないわよね?』と警戒しつつ、私も一先ず席を立つ。


「あ、あの……お父様」


「なんだ?」


「魔道具は一つで充分ですからね。それにまだ使い慣れていないので、あまり高価なものは……」


 壊してしまった時のことを考えて、私はやんわり釘を刺す。

が、父は相変わらずのようで……


「何故だ?可愛い娘の使う魔道具なのだから、惜しむ必要はないだろう?」


 妥協する気は一切なさそうだった。

どことなく既視感を覚える光景に辟易していると、父がそっと私を抱き上げる。


「それより、そろそろ食事にしよう。これ以上、遅れたら就寝時間に間に合わない」


 『ベアトリスの生活リズムが崩れる』と言い、父は扉に足を向けた。

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