魔力コントロール②

 『あともうちょっとなの……』と思案する中、不意に頭を撫でられた。

ビックリして後ろを向くと、そこには父の姿が……。


「お、お父様何でここに……?」


「夕食の時間になっても来ないから、様子を見に来た」


「えっ?もうそんな時間……!?」


 慌てて周囲を見回すと、空は真っ暗で……八時を示す時計の針が目に入る。

────と、ここで薄暗かった室内が一気に明るくなった。

恐らく、父の魔法だろう。


「ご、ごめんなさい!直ぐに支度して、食堂に……」


「ベアトリス、魔力はこうやって動かすんだ」


 そっと私の手に触れ、父はゆっくりと自身の魔力を送り込んだ。

ちゃんとコントロールされたものだからか、ムズムズした感覚はない。

ただ、やっぱり違和感はあるけど。


「魔力は血液と同じだ。流れる方向と道筋さえ決めてやれば、あとは勝手に動く。『使う』という意識を持つな。自分の体の一部だと思え」


 そう言うが早いか、父は私の魔力を全身へ……それこそ、指先まで押し出してくれた。

かなり強引な方法の筈なのに、全く苦痛はない。

それはきっと、父が上手く調節してくれているから。


「指先まで来たら、折り返して……また心臓辺りで送り出す。ひたすら、この繰り返しだ。これで、道筋は覚えたな?」


「は、はい」


「さすがは私の娘だ」


 『物覚えが早いな』と手放しで褒め、父はまた頭を撫でてくれた。


「多分、もう一人で循環出来る筈だ」


「ほ、本当ですか……?」


「ああ」


 一瞬の躊躇いもなく首を縦に振る父は、スッと目を細める。


「だが、別に出来なくてもいい。前にも言ったように、ベアトリスが生きて幸せになってくれれば私は充分だ」


 不安がっていることを察したのか、父は砂糖菓子よりも甘い言葉をくれた。

失敗したって構わない、と……無理に背伸びする必要はない、と。


「ベアトリスはここに存在するだけで、価値がある。だから、周りの顔色を窺わなくていい。自分を追い詰めなくていい。何者かになろうとしなくていい」


「は、い」


「自分のやりたいようにやっていいんだ、ベアトリス」


 好き勝手に振る舞うことを許可し、父は少しだけ表情を和らげた。


「それで、ベアトリスは今何がしたい?」


「えっと……魔力を循環出来るようになって、上手くコントロールしたいです」


「そうか。やってみなさい」


 『傍で見ているから』と告げる父に、私はコクリと頷いた。

自身の手のひらをじっと眺め、先程の感覚を思い出す。


 確か、お父様はこんな風に……あっ────


「────出来た!」

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