魔力のおさらい①

 まあ、他の人に比べれば大分友好的ではあると思うけど。

精霊から見て、父は上司の大切にしている人に当たる存在だもの。

無下にはしない筈。


 『それなら、娘の私も……』と少しだけ希望を見出す中、ルカはガシガシと頭を搔いた。


「あー……実はな、光の公爵様が闇堕ちしたとき────精霊が積極的に手を貸したんだ」


「えっ?」


「『手を貸した』というより、アレは自滅に近いけどね」


「そ、それはどういう……?」


 ますます訳が分からなくなり質問を重ねると、ルカとグランツ殿下は顔を見合わせた。

かと思えば、どちらからともなく頷き合い、苦笑を浮かべる。


「光の公爵様が世界を滅ぼそうとしていた話は、もうしたよな?」


「ええ」


「あん時の公爵様はな、確かに手当り次第ものを破壊しまくっていたけど、世界を滅ぼすほどじゃなかった。もちろん、あのまま放置していたらいずれ世界を滅ぼせただろうけど……でも────実質、世界を滅亡に追い込んだのは精霊なんだ」


 当時の状況を思い出しているのか、ルカは珍しく表情を硬くした。


「精霊はみんな公爵様の怒りや悲しみと共鳴するように────災害を起こし続けた。火山の噴火、地震、津波、台風……まるで狂ったかのように自然を壊し、俺達に牙を剥いた」


「自然が損なわれれば、自分達もタダでは済まないというのにね……」


 『これは一種の自傷行為だよ』と語るグランツ殿下に、私は目を白黒させた。

そうしてまで父の力になろうとしたのかと思うと、なんだか複雑で……。


 お父様を大切に思ってくれるのは嬉しいけど、世界の滅亡を手伝うのはちょっと……出来れば、止めてほしかったな。

それで、お父様と互いを助け合いながら生きてほしかった。


 父にも精霊にも辛い思いや痛い思いはしてほしくなくて、世界滅亡という選択肢を悲しんだ。

でも、ふと────自分がもし逆の立場だったら同じことをするかもしれない、とも思った。

大切な人を失うだけでも辛いのに……誰かに殺されたなんて知ったら、我を忘れそうだから。

『そうなると、私も人のことは言えないかも……』と苦笑する中、ルカが教科書を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る