お詫び②
「それなら、直ぐに派遣出来るね。それこそ、明日にでも」
────という言葉の通り、グランツ殿下は即行で新しい家庭教師を……自分自身を派遣してくれた。
「やあ、ベアトリス嬢。今日から、よろしく頼むね」
昨日よりラフな格好で現れ、グランツ殿下はニコニコと笑う。
その後ろで、父が仁王立ちしているというのに……。
『怖くないのかな?』と疑問に思う中、父は眉間に皺を寄せた。
「何故、殿下なのですか……」
「ん?だって、私以上に条件の合う人材は居ないだろう?」
心底不思議そうに首を傾げ、グランツ殿下は『考えてご覧よ』と促す。
「私は歴代皇帝を凌ぐほどの天才で、聖人と言われるくらい性格が良く、公爵夫人と一切接点を持たない。まさに適任だろう?」
「……」
確かに一応条件は満たしているため、父は押し黙る。
物凄く、嫌そうな顔をしているが。
「お忙しい殿下の手を煩わせる訳には……」
「心配ご無用だよ。父上に家庭教師の件を話したら、『公爵の機嫌を取ってこい。公務はこっちでやっておく』と背中を押されたから」
「……」
『全く問題なし』と言われ、父は手で顔を覆った。
どうにかして追い返そうとしている彼の前で、グランツ殿下はクスクスと笑う。
「安心したまえ。私は弟のように愚かじゃないからね。ベアトリス嬢の嫌がることは、絶対にしない」
『可愛い女の子に酷い真似は出来ないよ』と冗談交じりに言い、グランツ殿下は目を細めた。
「そういう訳だから、公爵は自分の仕事に戻っておくれ。そろそろ、ユリウスが泣くと思うよ」
「……」
「お、お父様……私は大丈夫ですから、行ってください」
「……分かった」
やっと首を縦に振った父は『何かあったら殿下を殴っていいぞ』と言い残し、退室。
おかげで、グランツ殿下と二人きりになった────表面上は。
「やっと行ったか〜!ったく、これだから親バカは」
『んー!』と軽く伸びをして、はしゃぐのはルカだった。
「イージスも外で待機しているし、思い切り会話出来るな〜!」
半開きの扉からオレンジ髪の青年を見やり、ルカは上機嫌になった。
ここ数日ずっと父の傍に居たため、まともな会話を交わせず、不満が溜まっていたのだろう。
『一緒に居るのに一人だけ、蚊帳の外だったもんね』と同情する中、グランツ殿下はクルクルと指を回す。
と同時に、音を遮断する類いの結界を張った。
「ずっと構ってあげられなくて、悪かったね」
「いや、言い方!それだと、俺がカマチョみたいだろ!」
心外だと言わんばかりに反論してくるルカに、グランツ殿下は頬を緩めた。
「ごめん、ごめん」
「絶対、『ごめん』なんて思ってないだろ!?」
「いや、そんなことはないよ。ただ、こうしてルカと話すのは久しぶりだから楽しくてね」
「あー……逆行してからは、ベアトリスに付きっきりだったからなぁ」
『心配で目が離せないんだよ』と語り、ルカはこちらを見る。
すると、グランツ殿下も釣られるようにこちらへ視線を向けてきた。
「さて、雑談はこの辺にして講義を始めようか」
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