第二皇子の来訪①

◇◆◇◆


「第二皇子ジェラルド・ロッソ・ルーチェ殿下が、来訪されました」


 じぇ、ジェラルドが……?

 

 予想と全く違う報告に、私はゆらゆらと瞳を揺らした。

遠征隊の悲報じゃなかったのは幸いだが、前回自分を殺した人物の来訪は……どう頑張っても、喜べない。


「どうやらお忍びで城下町に向かおうしたところ、間違って公爵領行きの馬車へ乗ってしまったようで……城からの迎えを待つ間、ここに置いてほしいとのことです」


 『恐らく、五時間程度の滞在になるかと』と述べるユリウスに、私は何も言えなかった。

ただただ震えて……下を向いているだけ。

貴族の模範解答としては、今すぐ招き入れておもてなしするべきなのに。

どうしても、屋敷へ……自分の領域へ入れたくなくて、口を噤んでしまった。


 ど、どうしよう……?どうするべき?どうしたら、いいの?


 たくさんの疑問や葛藤が脳裏に渦巻き、私は口元を押さえる。

今にも泣きそうになる私の前で、ルカは


「チッ……!どういうことだよ……!第二皇子はここに近づけさせないって、言っていただろうが……!」


 と、苛立たしげに前髪を掻き上げた。

『話が違う!』と喚き立て、部屋の窓から正門を眺める。

と同時に、眉を顰めた。

どうやら、本当にここまでジェラルドが来ているらしい。


「ゆ、ユリウス……私……」


 ────行きたくない、と言っていいんだろうか。

公爵令嬢としての役目を放棄して、いいんだろうか。

子供みたいに駄々を捏ねて、いいんだろうか。


 ギュッと胸元を握り締め、私は喉元まで出かかった言葉を呑み込む。

『やっぱり、ここは行くしか……』と思い悩んでいると────不意に手を握られた。


「ベアトリスお嬢様、ジェラルド殿下を────皇城まで送ってきてもいいですか?」


「えっ……?」


 思わぬ言葉に目を剥き、私は反射的に顔を上げた。

すると、優しく笑うユリウスが目に入る。


「さすがに家主の居ぬ間に、他人を招き入れる訳にはいきませんからね」


「で、でも……相手は皇族でしょう……?」


「関係ありませんよ。だって、この屋敷の主は光の公爵様ですよ?誰も文句は言えません。というか言わせません、公爵様が」


 暗に『皇族より上の存在だ』と言ってのけたユリウスは、エメラルドの瞳をうんと細めた。


「それに公爵様はお嬢様の居る場所へ、他人を寄せ付けたがりません。異性ともなれば、尚更」

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