能ある鷹は爪を隠す《ジェラルド side》②

「悪いけど、ここで少し待っていてくれ。出来るだけ、早く戻ってくるから」


 そう言うが早いか、青年は侍女を連れてどこかに行ってしまう。

あっという間に見えなくなった背中を前に、僕も席を立った。

ティーカップを手に持ったまま花壇に近づき、中身を掛ける。


「さてと────動くとしたら、今しかないな」


 空になったティーカップをテーブルの上に戻し、僕は周囲を見回した。

誰も居ないことをしっかり確認してから、ガゼボを離れる。

が、直ぐに誰か追い掛けてきた。

恐らく、あの男の手下だろう。

『ノーマークにするつもりはないってことか』と分析しつつ、僕は魔法を使う。


 僕はまだか弱い第二皇子のままで居ないといけないから、直接攻撃するのはダメだ。

とにかく姿をくらませて、あちらが見失ったことにするしかない。

非常に面倒臭い手だが、魔法を使えることはまだ内緒にしておきたいからしょうがない。


 『能ある鷹は爪を隠すものだ』と自制しながら、僕は日の光を反射させた。

と同時に、遠くの茂みをわざと風で揺らす。

これで相手の気を逸らせた筈。

僕は『ジェラルド殿下!』と叫ぶ騎士を一瞥し、中庭から飛び出した。

戻ってきた時の言い訳を考えながら、城壁に到着する。


 確か、この辺りに……あった。


 胸辺りまである草を掻き分け、僕は抜け穴に頭を突っ込んだ。

しっかりと周囲の状況を確認し、急いで外に出る。

あとは公爵家へ行くための足を確保出来たら、上々なのだが……。


「まあ、そう都合よく馬車が通り掛かる訳ないか。仕方ない────魔法で飛んでいこう」


 人目につかないルートを脳内で思い浮かべつつ、僕はふわりと宙に浮いた。

と言っても、数センチ程度だが。

『ここだと、まだ目立つからな』と思案する中、僕はバレンシュタイン公爵家のある方向を見つめる。


 ベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン……僕の踏み台であり、命綱。

待っていてくれ、必ず君を手に入れるから。


 過保護なほど公爵に守られた小鳥を思い浮かべ、僕は目的地へ向かい────公爵家の門を叩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る