天敵出現《ルカ side》②

「申し訳ございません……!申し訳ございません……!申し訳ございません……!」


 まるで念仏のように謝罪の言葉を繰り返し、マーフィーはガンガンと勢いよく頭を床に打ち付けた。

単なる土下座では、許しを貰えないと判断したのだろう。

もしくは、完全に気が触れたか……。


「私が間違っておりました……!奥様を敬愛するあまり、あのような蛮行を……!お許しください!」


『許しを……乞う……相手が……違う……だが……貴様の……気持ちは……分かった……』


 さすがにこれ以上追い詰めると、精神を病みそうなのでここら辺で手打ちとする。

無論、マーフィーの態度によっては更にお灸を据えることになるが。

『まあ、当分の間は反省するだろ』と結論づけ、俺は再び風を動かす。


『今後の……行いに……期待……しよう……ただし……次は……ない……』


「はい……はい!必ず心を入れ替えます!公爵様の罰も全て受け入れ、一生をかけてベアトリスお嬢様に償います!」


 首振り人形の如くコクコクと頷くマーフィーに、俺は一つ息を吐く。

『最初から、そのくらい従順で居ろよ』と呆れながら。


「変なところでプライドを保とうとするから、こうなるんだっつーの」


 溜め息交じりにそう零し、俺はパチンッと指を鳴らした。

その瞬間、マーフィーは気絶し、周囲に張った結界も解ける。

『とりあえず、これで後処理は完璧だな』と肩の力を抜き、俺は踵を返した。

そして、ベアトリスの警護に戻ろうと浮遊魔法の効力を強める中────


「何者だ……!?」


 ────曲がり角から、オレンジ髪の青年が飛び出してくる。

青の騎士服を身に纏う彼は、剣先をこちらに突きつけた。

それも、俺の喉元を正確に。


 まさか、俺が見えているのか……?いや、そんな筈……!


 困惑気味に目を白黒させ、俺は数歩後ろに下がる。

そんなことをしなくても、体質上怪我を負うことはないのだが……恐れが先に出た。

『一体、こいつは何者なんだ?』と警戒する俺の前で、青年はパチパチと瞬きを繰り返す。


「あ、あれ……?おかしいな。さっき、確かに妙な気配を感じたんだけど……」


 『俺の気のせい?』と首を傾げ、サンストーンの瞳に困惑を滲ませた。

かと思えば、引き抜いた剣を鞘に収め、キョロキョロと辺りを見回す。


 なんだ、ただの野生の勘か。


 『ビビって損した~』と肩の力を抜き、俺は一つ息を吐く。


「極稀にめちゃくちゃ勘の鋭いやつが、居るんだよなぁ……まあ、ここまでハッキリと俺の存在を認知出来たのは、こいつが初めてだけど」


 『抜刀するくらいだから、かなり確信を持っていた筈』と推測し、俺は小さくかぶりを振った。


 こいつには、極力近づかないでおこう。

今回はたまたまと割り切れても、何度か気配を感じ取ればおかしいと思う筈。


 ────と判断し、疎遠を決意したのだが……


「本日付けでベアトリスお嬢様の護衛騎士に任命されました、イージス・ブリッツ・モントです!よろしくお願いします!」


 俺の思惑とは裏腹に、例の騎士が姿を現した。

とても、人懐っこい笑みを浮かべながら。


 また使用人に虐げられるような事態を防ぐため、こういう手段に出たのか。

まあ、確かに公爵家の騎士は優秀だし、忠誠心の厚い奴ばかりだから信用出来る。

けど、何でよりによってこいつなんだ……。 

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