天敵出現《ルカ side》③

 逆行してから僅か十日で高い壁にぶち当たり、俺は頭を抱え込む。

『前途多難にも程があるだろ……』と項垂れていると、ベアトリスはおもむろに席を立った。

新しく宛てがわれた部屋でイージスと向かい合い、柔らかい笑みを浮かべる。


「こちらこそ、よろしくね。仲良くしてくれると、嬉しいわ」


「はい!」


 大きく頷いて返事するイージスは、キラキラと目を輝かせた。

『お嬢様の護衛騎士になれて光栄です!』と声を張り上げ、浮き立つ。

まるで犬のように落ち着きのない彼に、ベアトリスは頬を緩めた。


 きっと比較的年の近いやつが現れて、喜んでいるのだろう。

と言っても、五歳以上離れているが。

でも、他の騎士に比べたら若い方だし、見るからに社交的……というか、人懐っこいので仲良く出来る筈。

問題は────


「あの、お嬢様。つかぬ事をお聞きしますが、他に誰か居ます?なんか、妙な気配を感じるんですが……」


 ────この勘のよさだよな……。


 大きく息を吐いて項垂れる俺は、すっかり途方に暮れる。

『なんか、この前感じたやつと似ているなぁ』と零すイージスを見ながら。


「悪い、ベアトリス……何とか誤魔化してくれ。多分、その妙な気配って俺のことだ」


「えっ!?」


 ギョッとしたように目を見開くベアトリスは、俺とイージスを交互に見やり困惑する。

が、何とか平静を保った。

『頑張らなきゃ!』と己を奮い立たせ、ギュッと手を握り締める。


「えーっと……き、気のせいじゃないかしら?」


「恐らく、違います。今だって、そっちから凄い気配が……」


 俺の方をチラリと見て、イージスは剣の柄に手を掛ける。

と同時に、一歩前へ出た。

何かあっても、直ぐにベアトリスを庇えるよう近づいたのだろう。


 仕事熱心で何よりだが、警戒される側としてはちょっと複雑だ。


 『俺はベアトリスの味方なんだよ……』と項垂れる中、彼女は必死に知恵を絞る。


「う、う~ん……あっ、そうだわ!それって、我が家を守っている幽霊じゃないかしら!?ほら、ウチの屋敷って修繕こそしているけど、結構古いでしょう!?」


 『幽霊の一つや二つ居着いていてもおかしくない!』と主張するベアトリスに、俺は肩を落とす。


 いや、いくらなんでもそんな言葉で誤魔化せる訳……


「なるほど!そういうことでしたか!」


 あったわ。全然誤魔化せたわ。


 単純としか言いようがないイージスに、俺は遠い目をした。

『こんなにあっさり解決していいのかよ……』と拍子抜けし、一つ息を吐く。

────と、ここでイージスが騎士の礼を取った。俺に対して。


「公爵家に住まう幽霊様、先日は大変失礼しました!これから、よろしくお願いします!」


 害はないと判断したのか、イージスは警戒を解き元気よく挨拶した。

無邪気に笑う彼の前で、ベアトリスはホッとしたように肩の力を抜く。


「えっと……とりあえず、お茶にしましょう。イージス卿のことをもっと教えてちょうだい。せっかくだから、仲良くなりたいの」


 早く幽霊の話題から離れたいようで、ベアトリスはテラスへ俺達を促した。

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