溺愛①

「とりあえず、話は分かった。こっちで対応するから、ベアトリスはさっさと寝ろ」


 『まだ夜の十一時だぞ』と言い、ルカは横になるよう促す。

正直全く眠気なんてなかったが、反論出来る余地はなさそうで……私は言われた通り、寝転がった。

すると、上からシーツを掛けられる。


「んじゃ、おやすみ。また明日な」


「え、ええ。おやすみなさい」


 ────という挨拶を交わしたのが、つい数時間前……私は華やかなドレスに身を包み、父と食卓を囲んでいた。

見たこともないような豪勢な料理を前に、私は困惑する。

きっと、これが貴族令嬢の日常なんだろうが……ずっとパンとスープだけで生きてきたため、どうも慣れなかった。


「お、お父様……」


「なんだ?」


「あの、自分で食べられます」


 口元まで運ばれたサラダを前に、私は苦笑する。

こうも子供扱いされると、なんだか照れ臭くて。

『一応、中身は十八歳なのよね……』と悶々とする中、父は少し残念そうにフォークを下げた。


「そうか……」


「あっ、でもお父様に食べさせてもらった方が美味しく感じます」


「そうか」


 思わずフォローを入れると、父は直ぐさまフォークを持ち直す。

再び差し出されたサラダを前に、私は素直に口を開いた。

そのままパクッとサラダを食べ、モグモグと咀嚼する。


「ベアトリスは何をしていても、愛らしいな」


「公爵様、親バカも大概にしてください……」


 堪らずといった様子で横から口を挟み、ユリウスはかぶりを振った。

かと思えば、こちらに目を向ける。


 ユリウスとは前回も含めてあまり関わってこなかったから、よく知らないのよね。

ただ凄く優秀で、お父様に絶対的忠誠を誓っていることくらい……。


 『彼も私の出生について、不満を持っているのだろうか』と不安を抱く中、ユリウスはニッコリと微笑んだ。


「ベアトリスお嬢様、後ほど新しい使用人とお部屋を紹介しますので楽しみにしていてくださいね。あと、今日は商会を呼んでいますから欲しいものがあれば仰ってください」


 拍子抜けするほど好意的に接してくるユリウスは、これでもかというほど愛想を振り撒く。

悪意や敵意など微塵も感じさせない穏やかな瞳を前に、私はホッと息を吐いた。


「ええ、ありがとう」


「いえいえ、仕事ですから」


「でも、私のせいで大変だったでしょう?」


 『手間や時間が掛かった筈だ』と主張する私に、ユリウス────ではなく、父が反応を示す。


「ベアトリスのせいではない。身の程を弁えず、出しゃばった愚か者共のせいだ」


「そうですよ、お嬢様。それにこうなったのは、屋敷の管理を怠った我々のせいでもありますし」


 『ある意味、自業自得です』と語るユリウスに、迷いはなかった。


「それより今日は本当に忙しくなりますから、しっかり食べて体力をつけてください」

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