すれ違いの結末②

「ベアトリスが妻の腹を食い破って出てきた、卑しい子だと?戯言は程々にしろ」


 恐ろしく冷たい目でマーフィー先生を睨みつけ、父は聖剣に手を掛けた。

が、やはり抜けない。

何故なら、聖剣は神聖力────神より賜りし聖なる力を宿しているため、本当に必要なときしか抜けない仕組みになっているのだ。

また、選ばれた者でないと触れることさえ出来ない。

それくらい、神聖で高潔なつるぎなのである。


「────抜けろ。さもなくば、へし折るぞ」


 本気なのか冗談なのか分からないトーンでそう言い、父は強く剣を引っ張る。

でも、聖剣は頑として抜刀を許さず……ひたすら膠着状態が続く。

────と思いきや、少しばかり剣身が見えてきて?


「おいおい、マジかよ……力技だけで、聖剣を抜こうとしてんだけど」


 ずっと傍で様子を見守っていた黒髪の男性は、『光の公爵様、エゲつねぇ~』と声を漏らした。

感心とも呆れとも言える表情を浮かべる彼の前で、父は更に力を込める。


「我が妻の死を利用して、娘にこれほどむごい仕打ちをしたんだ。ただ殺すだけでは、足りない……この世から、完全に消滅・・させる」


 消滅────聖剣にのみ、許された権能。

これは簡単に言うと、物や者の存在を完全に消す能力のことだ。

通常は何をどう破壊しても破片や魂が残るものの、聖剣の権能を使用した際は跡形もなく消し去ることが出来る。


 そ、そんな力を民間人に使うなんて絶対ダメ……!

何より、私のせいでお父様の手を汚すのは嫌!


「お、お父様……!」


 どう説得するか考える前に話し掛けてしまい、私は今になってハッとする。

『どうしよう!?何も考えてない!』と慌てる中、父はこちらに視線を向けた。


「ベアトリス、少し待っていなさい。汚物を処理してから、話を……」


「い、嫌です!私を────優先してください!」


 反射的にとんでもないことを口走ってしまった私は、急いで口元を押さえる。

が、時すでに遅し……。


 も、もう……!私ったら、こんな子供っぽいことを……!


 『まるで駄々を捏ねているみたいじゃない!』と恥ずかしくなり、私は頬を紅潮させる。

でも、さっきはこれしか思いつかなかったのだ。

『我ながらアホすぎる……』と悶絶していると、父が聖剣から手を離した。


「そう、だな……優先すべきはベアトリスのケアだ。こんなやつに構っている暇はない」

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