謎の男性①
「だ、誰……!?どうして、ここに居るの……!?」
屋敷の警備をどうやって掻い潜ったのか分からず、私は目を白黒させる。
『まさか、暗殺者……!?』と青くなる私の前で、彼はパッと両手を上げた。
「ちょっ……落ち着けって。俺はお前に危害を加える気はない。むしろ、助けてやった側だし」
「えっ……?」
「単刀直入に言うと────お前を過去に戻してやったのは、俺なんだ」
両手の人差し指で自分を示し、男性はニカッと笑う。
どこか、誇らしげに。
「まあ、術式を発動させたのが俺ってだけで細かい計算や調整をやったのは、別のやつらだけどな」
『俺、そういうチマチマした作業苦手だから』と言い、肩を竦める。
その際、綺麗に切り揃えられた短い黒髪がサラリと揺れた。
「じゃ、じゃあ私は本当に生きているのね……?死後の世界とかじゃなくて」
「ああ、バッチリ生きているぜ。つか、お前を生き返らせるためにこんな無茶したんだから」
「ど、どういうこと……?」
私は誰にも愛されず、必要とされず、裏切られた女……こんなにも惨めで情けない私を生き返らせるなんて、時間の無駄としか思えない。
『一体、何が目的なんだろう?』と思案する中、男性は天井を仰ぎ見る。
「う~ん……どっから、話そうかなぁ」
ガシガシと頭を掻きながら、男性は悩ましげに眉を顰めた。
かと思えば、パッと頭から手を離す。
「あー……まどろっこしいのは苦手だから、結論から言うわ────お前を生き返らせたのは、
「……えぇ?」
ますます意味が分からなくなり、私は目を白黒させる。
自分の生死が世界の命運を握っているなんて……想像もしなかったから。
「じょ、冗談よね……?」
「いや、ガチ」
「ど、同情心とかではなく……?」
「ああ。俺がそんな優しい人間に見えるか?」
「……見えないわ」
「うん、事実だけどこうも断言されると傷つくな。事実だけど」
なんとも言えない表情でしげしげと頷き、男性は一つ息を吐いた。
かと思えば、場の空気を変えるかのようにパンッと手を叩く。
「まあ、とにかくお前が生きないとこの世界は十一年後に滅ぶ」
「ど、どうして?」
「それは────お前のことを超超超溺愛している公爵様が、怒り狂うからだ」
「へっ……?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう私は、そっと口元に手を当てた。
この言葉を口にしていいのか迷いながらも、『そうじゃない』と信じたくて……言葉を紡ぐ。
「お、お父様が世界を滅ぼすってこと?」
「ああ」
「う、嘘よ!だって、お父様は────」
そこで言葉を切ると、私は壁に飾られたバレンシュタイン公爵家の旗を見た。
「────名実ともにこの国を救った英雄なのよ!」
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