5話 ポンポン上がるランク


「村の畑にあるやつと同じぐらい品質がいいですね」


 そう言いながら、リクが霊草を毟っている。


「だろ? 野生の薬草も悪くねぇよな」


 アルトは岩場に腰を下ろして、リクとエレノアの作業を見ている。


(薬草じゃなぁぁぁぁぁい!! それ霊草!!)


 アルトの隣に座っているディアナは、心の中で激しく突っ込みを入れた。


「おいディアナ」エレノアが言う。「どのぐらい採ればいいのだ?」


「多ければ多いほど、功績が溜まるというか、その……えっと、指定された薬草と違うけど、別途ギルドが買い取ってくれるから……」


「あれ? 違う薬草なら」リクが言う。「依頼のクリアにならないです?」


「いや、えっと、上位互換だから大丈夫だ……」


 ディアナが引きつった表情で言った。

 そもそも、なんで霊草が群生しているのかと。

 どこだよここ、とディアナは思った。

 あと、お前らなんでそんな普通に毟ってんだよ、とディアナは突っ込みたかった。

 ブラピはムシャムシャと霊草を食べている。


(貴重な霊草がおやつ代わりに消費されていくぅぅ!)


 冒険者たちが見たら卒倒しそうな場面だ、とディアナは思った。

 リクとエレノアは霊草を山ほど毟って、リクの異次元巾着に放り込んでいく。


(戦闘能力は高いわ、異次元巾着は持ってるわ、霊草をそこらの雑草みたいに引き抜くわ、一体どうなっているのだ最近の若い子は……)


 ディアナは頭痛がしたような気がして、小さく頭を振った。

 と、大きな咆哮とともにグリフォンが出現した。


「!?」


 グリフォンは鷲の上半身と翼、ライオンの下半身を持った魔物である。

 非常に強力な魔物で、討伐依頼は単独でBランク、複数ならAランクに相当する。


「まずい! ここは我……が……」


 ディアナが立ち上がった時には、グリフォンはすでに斬り刻まれていた。

 リクが双剣でパパッと斬ってしまったのだ。

 エレノアは特に気にした様子もなく、霊草を毟っている。

 ブラピは首の1つがチラッとグリフォンを確認したが、それだけだった。


(てゆーか、その双剣は何だ!? 伝説の武器!? 伝説の武器だな!? もう見るからに伝説の魔剣の類いなのだが!?)


 ディアナが口をパクパクさせている間に、リクは双剣を鞘に収めた。


「ディアナさん、こいつって持って帰った方がいいです?」リクが言う。「村の子供たちで狩るような雑魚ですけど、功績になるんですか?」


「お前の村は魔王城か何かなのか!?」


 ディアナは思わず突っ込みを入れてしまった。


「何の変哲もない普通の村ですが?」


 リクがキョトンとして言った。


「んなわけあるかぁぁぁぁぁあああああ!!」


 ディアナは天に向けて咆哮した。

 グリフォンが子供たちで狩れてたまるかぁぁぁぁ!


「おいどうしたんだよ急に」アルトが言う。「ビックリするじゃねぇか」


(ビックリしたのはこっちじゃぁぁぁぁい!)


 ディアナは何度か深呼吸して、気を落ち着ける。


(そうだった、村と言っても、漆黒の雷電であるアルト様の隠れ村。きっと幼い頃から戦士として英才教育を行っているに違いない)


 ディアナはそのように納得した。


「それで、こいつは」リクがグリフォンの死体を指さす。「持って帰った方がいいんですか?」


「ああ……その方がいいだろう……」


 ディアナが苦笑いしつつ言った。

 リクがグリフォンの死体を異次元巾着に仕舞う。


「早くランク上げたいし、近隣の魔物を狩ってきてもいいですか?」


 リクはディアナではなくアルトを見ながら言った。


「いいんじゃねぇの? エレノアも行ってこいよ」

「分かりましたアルト様」


 リクとエレノアに、ブラピが付いて行った。

 ディアナはなぜか疲労感に襲われ、大きな息を吐いた。



 リクとエレノアは一日でBランクまで上がったようだ。

 マジか、冒険者って割と簡単にランク上がるんだな、と俺は思った。

 まぁいいや、細かいことは気にしない。

 ちなみに、冒険者ギルド内は現在、てんやわんやの大騒ぎ状態。

 リクとエレノアが魔物の死体を大量に出したからだ。

 あと薬草も多すぎて全部は買い取れないらしい。


「ああ、そうだろうな、そうなるよなぁ」とディアナが呟いた。


 リクとエレノアはギルドの職員と話をしていて、ブラピはエレノアの近くで待機している。

 ブラピはエレノアを見守っているのかな?


「ああそうだ」俺は唐突に、大事なことを思い出した。「明日はカリーナに頼まれた依頼でも受けるか」


 いやぁ、すっかり忘れてたぜ。

 えっと、邪悪なアンデッドの集団だったっけ?


「カリーナとは?」とディアナ。

「聖女だ」と俺。


「……どういう関係か聞いても?」

「友達の友達って感じだな」


 言いながら、俺は依頼書の貼ってある掲示板でカリーナの依頼を探す。

 Fランクってことはないだろうけど、一応Fランクから見ていく。


「それで?」ディアナが言う。「どんな依頼だ?」


 俺は邪悪なアンデッド集団のことをディアナに説明した。


「ふむ。アンデッドの集団なら、少なくともAランク以上だろう。連中は血も涙もない正真正銘の邪悪」


 んんんんん!?

 偏見すごくね!?

 俺とエレノアもアンデッドなのだが!?


「アンデッドは話も通じないし、実に凶悪だ」とディアナ。


 もしかして人間ってアンデッドのこと嫌いなの!?

 衝撃すぎて口をパクパクしちゃったぜ。


「その中でも、特に愚かで邪悪だったヴァンパイアが絶滅したのは幸いだったが」


 絶滅してねぇよぉぉぉ!

 ギリギリ生きてるんだよぉぉ!

 まぁ、ヴァンパイアが愚かで邪悪だというのは、正直俺もそう思う!


「ん、あったぞ」


 ディアナはSランクの依頼書を剥がして、俺に差し出した。

 俺は複雑な心境を抱えたまま、依頼書に目を通す。

 ああ、これだ。

 てか、この集団のボスってリッチ・ロードなんだなぁ。


 依頼書にイラスト付きで書いてあった。

 これはエレノアの相手にちょうど良さそうだ。

 そう思った時、エレノアとリクとブラピが俺の方に寄ってきた。

 どうやら、職員との会話は終わったようだ。


「明日はこれ受けろよ」


 俺は依頼書をエレノアに渡そうとしたのだが、なぜかディアナが俺の手首を掴んだ。


「確認だがアルト様」

「ん?」

「アルト様と我がメインで、この子らはサポート……だな?」

「いや違うが?」


 ディアナが沈黙し、首を捻った。

 何かを考えているのだろう。


「貴様、いつまでアルト様……いや、父上の手を掴んでいるつもりだ」


 エレノアが言って、ディアナが手を離す。

 そしてコホン、と咳払い。


「アルト様。Bランクのこの子たちにSランクの依頼は受けられない」

「あ、そうなのか? じゃあ俺が受けるか」


「それはいいのだが」ディアナが困惑した様子で言う。「アルト様がメインで戦う……のだよな?」


「違うって」俺は少し笑った。「エレノアがメイン、リクがサポート。俺とディアナが見学って感じかな」


「……2人が強いのは理解したが」ディアナはまだ困惑している。「さすがに厳しいのでは?」


「どんな依頼です?」


 リクが首を傾げたので、俺は依頼書をリクに渡した。

 そうすると、リクとエレノアが依頼書を読み始める。


「見てくださいアルト様、うちのリッチにソックリですよ!」


 エレノアがリッチ・ロードのイラストを見て爆笑した。


「リッチなんてみんな同じだろ」と俺も笑った。


 あいつらって、だって骸骨じゃん!

 よっぽど親しくないと区別とか付かねぇよ!


「いいんじゃないですか?」リクが依頼書を俺に返す。「リッチ・ロードと戦ったことはないですけど、普通のリッチなら倒したことありますし」


「……リッチを倒したのか?」とディアナ。


「わたくしも倒したぞ」エレノアが胸を張って言う。「リッチなど、そもそもわたくしの敵ではないっ! その上位種だろうと、同じこと!」

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