4話 カエルの子はカエル


「……なんだこの妙な……女は……」


 ブラピの上でグッタリしたまま、エレノアが顔を上げてカイラの弟子のディアナを見た。


「我こそはアルト様のパートナー、ディアナ・マッケンジー! ちなみに19歳だ!」


 ディアナは右手を自分の胸に当てつつ言った。

 ちなみに左手にはグングニルを握っている。

 ディアナの髪の色は茶色で、髪型はポニーテール。

 顔は比較的、美人だと思うけど吊り目で少し怖そうな印象を受ける。

 まぁ、顔が怖いと散々言われている俺が言うのもアレだが。

 あと、大事なことだけど、俺はお前のパートナーじゃねぇよ。


「勝手に僕の領主様のパートナーを名乗るなんて、いい度胸ですね」


 リクがキッとディアナを睨む。

 でもリクって顔が可愛いから、睨む姿も可愛いんだよな。


「この女……勇者と同じ臭いがする……」とエレノア。


「ふははは! まぁ我の実力は勇者に勝るとも劣らぬであろうな!」


 ディアナは胸を張って言った。

 マジか、こいつニナと同レベルなの?


「ってことは、お前もドラゴンを一撃で殺せるのか。すげぇな」


「え? ドラゴ……え?」とディアナ。

「で? 何か用なのか?」と俺。


 ディアナがコホン、と咳払い。


「我はアルト様がロクス帝国に来ると聞いて、数日前からこの港街で待っていたのだ」

「そうか。それで?」


 外の大陸からロクス帝国を目指す場合、ほぼ間違いなくこの港街を経由する。

 まぁ、飛んで行けば別だが。


「最初に言ったと思うが」ディアナがジッと俺を見る。「我とパーティを組んで欲しい」


「あー、悪いんだけど、俺はこいつらと組むんだ」


 俺はリクを見て、エレノアを見た。


「この2人は高名な冒険者か?」とディアナ。


「いや、初心者だ。今日、初めて冒険者に登録する」

「なるほど! では育成ということか! よろしい! 我も手伝おう!」


 それはありがたいな、と俺は思った。

 事前に調べたとはいえ、俺も初心者みたいなもんだからな。

 ニナと同じぐらい強いならきっとAランクだろうし、先生役にピッタリだ。


「そっか、じゃあ悪いけど手伝ってくれ」


 俺が言うと、リクとエレノアが「え?」という表情を浮かべた。


「心得た! ではまず冒険者ギルドに案内しよう!」


 ディアナがクルッと回って歩き始めたので、俺たちも続く。


「ぐぬ……あの女の狙いは……わたくしたちの育成ではなく……」

「分かってるよノア、あの女の狙いは領主様だね」


 なぜか2人はディアナを警戒しているようだ。

 でもカイラの弟子だし、悪党ではないと思うけどな。

 あと、俺は狙われるようなことは、してない。



 冒険者ギルドで、リクとエレノアが登録をしている間、俺は依頼書の貼ってある掲示板を見ていた。

 ブラピは俺の隣で大人しくしている。

 Bランクの依頼が一番多いみたいだ。

 ザッと内容を読み流すと、護衛とか探索の依頼が多いように見えた。

 そんなことを考えつつ、Aランクの依頼に目をやる。

 こちらは討伐系の依頼が多いようだ。


 でもおかしいな、どれも雑魚ばかりのように見える。

 うーん、キマイラがAランクってなんか変な感じだ。

 ネネが若い頃、初めて倒した魔物がキマイラだった気がするのだけど。

 60年以上、昔の話だし、もしかしたら俺の勘違いかもしれねぇけど。

 そんなことを考えながら、掲示板を見ていると。


「Sランク……?」


 依頼の掲示板に、Sランクの依頼があった。

 なんだSランクって。

 Aランクの上なのか?

 それとも、何か特殊な依頼って意味か?

 依頼内容から読み解こうと、依頼書を確認する。

 そうすると。


「ん?」


 魔神の調査という依頼があった。


「魔神なんかいねぇだろ?」


 それとも、人間たちは魔神の存在を信じているのだろうか。

 まぁ別に人間たちが何を信じていても、俺には関係ないけれど。

 とか思っていると、エレノア、リク、ディアナが寄ってきた。


「無事にFランク冒険者になりましたよアルト様!」とエレノア。


 冒険者はFランクから始まる。

 1番上はAランクだと思っていたけど、Sという謎のランクがあるようだ。

 特殊ランクなのか、単純にAの上なのか、まぁそのうち分かるだろう。


「2人をパーティとして登録したが」ディアナが言う。「我々はランクが違い過ぎて2人のパーティには入れん。組むためには、2人にAランクに上がってもらわねばな」


「そっか。分かった、ありがとな」


 ぶっちゃけ、俺このまま組まなくてもよくね?


「早速、依頼を受けますね」


 リクがFランクの依頼書を見て、薬草採取を選んだ。

 エレノアは赤ウサギ退治を選択。

 ディアナに案内され、カウンターで依頼を正式に受注する2人。


「まずは赤ウサギの狩り場に案内しよう!」とディアナ。



 赤ウサギという魔物は、パッと見ると毛の赤いウサギである。

 しかし、普通のウサギより身体が大きく、身体能力が高い。

 とはいえ、決して強い魔物ではない。

 我も最初は赤ウサギを狩ったなぁ、とディアナは思った。


 ここはロクス帝国の港街から少し離れた平原。

 赤ウサギの棲息地帯である。

 まぁ、赤ウサギは繁殖力が強いので、割とどこにでもいるけれど。


「それでは我が娘よ、赤ウサギを倒してみせるのだ」


 ディアナはすでに、アルトとエレノア、リクの関係性を聞いている。

 であるならば、アルトの娘であるエレノアは、即ち自分の娘も同義。

 なぜなら、ディアナはアルトと結婚を前提にお付き合いしたいと考えているから。


「誰が娘だ貴様! やはり貴様は勇者と同じ系統! わたくしに近寄るな!」


 エレノアはサッとアルトの背後に隠れてしまう。


「大丈夫、赤ウサギは怖くないぞ!」ディアナが言う。「普通のウサギよりちょっと強いが、初心者が狩るのに最適な魔物なのだ」


「誰がウサギなど恐れるか!」


 エレノアが怒った風に言った。


「とりあえずエレノア」アルトが言う。「赤ウサギの肉は割と美味いから、多めに狩っていいぞ」


「分かりました。では【サーチ】」


 エレノアが自らの魔力を展開し、周辺の情報を取得。


「え? 【サーチ】?」


 ディアナは普通に驚いた。

 エレノアの【サーチ】範囲が、普通にAランク冒険者のそれと遜色ないレベルだったから。

 それに、【サーチ】は初心者が使えるほど簡単な魔法でもない。


「ふむ。この周囲には30匹ほどですが、全部狩りますか?」

「全部狩ってもいいのか?」


 アルトがディアナを見ながら言った。


「あ、ああ。構わないが、全部狩るとなると、そこそこ時間が、かかりそうだな」ディアナが言う。「薬草は明日……」


「【ダークナイトサンダー】」


 エレノアが魔法を使うと、空に巨大な魔法陣が浮かぶ。

 そして次の瞬間、黒い稲妻が連続で落ちる。

 ディアナはポカンと口を半開きにした。


(ええええええ!? 漆黒の雷電の娘は漆黒の雷電ってことぉぉぉ!?)


 エレノアのあんまりな戦闘能力に、ディアナは心底ビックリした。

 ディアナは知らないが、エレノアはこれでも魔王軍の旅団長なのである。

 エレノアの周囲に魔王や勇者やアルトがいるせいで、弱いような印象を受けるが、実はエレノアは旅団長なのである。

 その上、最後のヴァンパイアクイーンでもあるのだ。

 エレノアの討伐依頼がもしも冒険者ギルドに出たならば、間違いなくSランク以上。


「だいぶ手加減したので、食べられる状態のはずです」


 言いながら、エレノアは浮遊魔法で赤ウサギ30匹の死体を浮かせ、そのまま自分の前に移動させて積んだ。


「いい感じだな。よくやったぞ」


 アルトがエレノアの頭を撫でる。

 エレノアは少し照れた風に頬を染めた。

 それから、アルトが赤ウサギの死体を異次元ポケットに仕舞う。


「では次は薬草を採りに行きましょう」とリク。


「ああ、それなら最初だし、俺が薬草の生えてるところまで連れて行ってやるよ」


 そう言って、アルトが【ゲート】を使用。

 あ、薬草はすぐそこで採れるのだが……とディアナは思ったが発言する時間はなかった。

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