5話 私はお花ですぅ! タマネギですぅ!
(ひぃぃぃ! なんで私、引っこ抜かれたの!?)
アルラウネは混乱していた。
いつものように魔王城の中庭でノンビリしていたところ、四天王最強のアルトがやってきた。
そして「ちょっと手を、いや、身体を貸してくれ」と頼まれ、優しく引っこ抜かれた。
それは本当に優しかったので、アルラウネはかすり傷1つ負っていない。
その後、ついでとばかりにトレントを誘い、アルトは【ゲート】を使用した。
(ワシはなぜ連れて来られたのだ?)
トレントも状況を飲み込めていなかった。
(ワシもアルラウネも、中庭賑やかし要員なのだが……)
トレントもアルラウネも、戦闘能力は低い。
最強四天王のお供など、できるはずがないのだが。
「いや、君、それは……魔物では?」
リーダーが震えながらトレントを指さした。
「何言ってんだ。こいつらは魔物である前に、植物だろうが!」
アルトが少し強い口調で言ったので、アルラウネとトレントはビクッとなった。
ケイオスも戦闘になるのかと構えた。
「そうですぅぅ! 植物ですぅぅ! 私たちは珍しい植物ですぅぅ!」とアルラウネ。
「ワシは植物! まずは植物! 魔物かどうかは、置いておく!」とトレント。
「ほら見ろ。本人もそう言ってるだろ?」
アルトがニッコリと笑った。
ケイオスは息を吐きながら構えを解く。
戦闘大好きなケイオスだが、今はアルトと戦うつもりはない。
どうせ勝てないからだ。
(次に戦う時は、俺様がお前を超えた時だぜ)
「あ、ああ……」リーダーは困惑していた。「まぁ、その……一旦ね? 一旦、その2人? 2匹? 2本?」
「2人だ」とアルト。
「その2人は、植物であると、私も認めよう、うん」
リーダーはケイオスの背中に半分隠れながら言った。
◇
どうやらリーダーは分かってくれたみたいだな。
やはり生きた証拠を連れて来て良かった。
前に魔王城の中庭で迷子になった時、綺麗なアルラウネが咲いてるなぁ、って思ってたんだ。
と、エレノアがススッと俺の背中に隠れた。
「あー、顔の怖い君、君の言いたいことは、十分に伝わった」リーダーが言う。「だからその魔物……いや、変わった植物たちを、返して来てくれないかな?」
「その前に、今後は植物のことも考えて活動してくれるんだろうな?」と俺。
「あー、えー、あー」とリーダーは煮えきらない。
「植物にも知性があるって分かっただろ? 恐怖を感じるってことも証明するか?」
俺が言うと、アルラウネとトレントがビクッとなった。
「お許しをぉぉ! アルト様ぁぁあ! 私はただのお花ですぅ! 怖いことは嫌ですぅぅ!」
「ワシもただの古木です! 白炎で消し炭とか勘弁してくださいっ!」
いや、何もしないよ!?
そんな本気で怖がらなくても!
恐怖を感じる証明にはなったけども!
「てかその球根?」ケイオスがアルラウネを見ながら言う。「タマネギみたいで美味そうだな」
「黙れ人間! お前なんか怖くないぞ!」アルラウネが急に大きな態度で言う。「人間なんか私の餌なんだから!」
「そうだぞ人間! 我々は魔……いや、変わった植物だぞ!」トレントも偉そうな感じで言う。「人間如き、いつでも殺せるのだぞ!」
「おいお前ら、そのオッサン、ケイオスだぞ」
一応、俺はオッサンの正体を教えてやる。
「ひぃぃぃ! ケイオス様ごめんなさい! 実は私はタマネギの仲間ですぅ! でも食べないで欲しいですぅ」とアルラウネ。
お前タマネギじゃなくね!?
「申し訳ございませんでしたぁぁ!」トレントはその場に倒木(土下座?)して言った。「そっちのタマネギは好きに召し上がってください!」
アッサリと仲間を売っていくぅ!
「ゲイル君は魔物に恐れられているのかね?」とリーダー。
「ああ、まぁな」とケイオスが肩を竦める。
「ほほう、実はゲイル君は、高ランクの冒険者とかかね?」
「いや、違うが……」ケイオスが少し考える。「だが冒険者も悪くねぇな。次は連中の修行方法を学ぶか」
え? ケイオスのオッサン、冒険者やるの?
まぁ、この国でやるなら俺と会うことはなさそう。
と、笛の音と一緒に憲兵たちがワラワラと集まって来た。
「おのれ活動家どもめ! 大通りの占拠では飽き足らず、魔物まで引き入れるとは!」
憲兵の1人が言った。
やっぱ無許可だったか!
「魔物を連れて来たのは我々ではな……」
「問答無用! 捕らえろ! 全員だ! 魔物は退治しろ!」
憲兵たちが一斉に抜剣。
やべぇ、逃げよう。
「面白い! 俺様を捕まえるだと! ゴミどもが! 世界を小僧に与えた手前、破壊し尽くすのはアレだが、貴様らは八つ裂きにしてやるぜ!」
おっと!?
ケイオスのオッサンが暴れそうだったので、俺は速攻で【ゲート】を使用。
俺、アルラウネ、トレント、ケイオスで魔王城の中庭へと移動。
「なんで俺様まで?」とケイオス。
アルラウネとトレントは、そそくさと所定の位置に戻った。
あとでお礼をしなくちゃな。
植物だから水がいいだろうか?
聖水……いや、ダメだろ聖水は。
天元の森の湧き水とかにするか。
「小僧。聞いてるか?」
「ん?」
「なんで俺様まで【ゲート】に巻き込んだ?」
「咄嗟に?」
「そ、そうかよ。んで? ここどこだ?」ケイオスがキョロキョロと周囲を見回す。「壊れた城?」
「修復中の魔王城」
ロザンナは今日も罰正座してんのかなぁ?
◇
エレノアは憲兵と活動家たちの争いを見ていた。
「アルト様……わたくしのこと、完全に忘れて……」
ちょっと泣きそうなエレノアだった。
「いや待て。これはつまり、アルト様ですら認識できないほど、わたくしは無になれたと、そういうことだな」
そう考えると、エレノアは急にいい気分になった。
両手を腰に当て、胸を反らし、そして高笑いを始める。
「はっはっは! さすがわたくし! これはもう最強まであと一歩なのでは!? なんせあのアルト様の認識を阻害したのだから! ふはははは! わたくしすごい! あとでリッチに自慢しよっと!」
いい気分のエレノアの肩に、誰かがポンッと手を置いた。
「お嬢ちゃん、君も活動家の仲間か?」と憲兵。
「わたくしがこんな連中の仲間に見えるのか?」
活動家たちは激しく抵抗し、憲兵にボコボコにされている。
その様子を見て、エレノアは「ざまぁ」と思った。
アルト様を笑うからだ、と。
「いや、見えない」憲兵が言う。「お嬢ちゃんはどう見ても貴族の令嬢だ」
「ふん。貴様のようなゴミ虫にも、わたくしの高貴さが分かるか。今は気分がいい。わたくしに触れたことは許してやる」
言いながら、エレノアは軽く憲兵の手を払った。
「ちっ、傲慢な……」
舌打ちしつつ、憲兵はエレノアから離れようとした。
「待て」エレノアが言う。「高貴なわたくしが証言してやろう。あのリーダーが魔物を連れて来たのを見たぞ。死刑にしろ死刑に」
「やはりか……」憲兵が言う。「しかし……魔物はどこに消えたんだ?」
「たぶん魔王城の中庭だろう」
アルトが連れて来たアルラウネとトレントを、そこで見たことがあった。
「ん? なんだって? 魔お……」
「さぁて、帰ろうっと!」
問いただそうとした憲兵を無視して、エレノアは【ゲート】でアルトの屋敷に移動。
そして安楽椅子に座ってユラユラと揺れる。
「お肉、お肉、まだかなー?」
そのままスヤァっと夢の中に落ちるのだった。
◇
「ああ! なんか忘れてると思ったらエレノアだ!」
俺はケイオスと魔王城をブラブラしていて、急に思い出した。
「……嬢ちゃん……」
ケイオスが哀れむように言った。
「まぁいっか。勝手に帰ってるだろ」
「いや小僧、お前、割と酷い奴だな」
「酷い奴!? 俺が!? 人畜無害で通ってる俺が!?」
あまりにも衝撃的なことを言われたので、危うくケイオスに掴みかかるところだった。
顔が怖いと言われることは多いが、酷い奴と言われたのはたぶん初めてだ。
「さすがに迎えに行ってやれよ」
ケイオスが苦笑いしながら言った。
「その必要はないと思うぞ。エレノアはたぶんもう俺の家だぞ」
そして俺の安楽椅子でウトウトしてんじゃねぇかな。
「どっちにしても、さっさと行ってやれよ」ケイオスが肩を竦める。「俺様も一旦、レアに戻るからよ」
レアというのは、ドラゴンの住処のこと。
そっか、ケイオスって住所不定じゃなかったのか。
「じゃあな小僧。また会おう。その時は徹夜でドラゴンの権利について議論だ」
ケイオスは【ゲート】で消えた。
「……普通に嫌なんだが?」
そんなことを呟いて、俺も【ゲート】で自宅に戻る。
そうすると、やっぱりエレノアは安楽椅子で寝ていた。
「忘れて悪かった」
俺はエレノアの頭を軽く撫でた。
「アルト様……ごはん……はやく……じゅる……」
俺はエレノアの涎を拭ってから、毛布を掛けてやる。
「今夜の食事は豪華だぜ? なんせ、大蛇とドラゴンのコラボだからな」
そう言って、俺は料理をしにキッチンへと向かった。
――あとがき――
これで『それでも俺はドラゴン肉が食いたい』編は終わりです。
次の話はリクと冒険者になる予定です。
いつもの如く、まだプロットが完成していないのですが、
次の月曜までにはできているはず!
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