Short Story それでも俺はドラゴン肉が食いたい
1話 アルトの村の肉祭り
俺は村で肉祭りを開いた。
まぁ、開いたって言っても俺は肉を提供しただけで、準備は村人がやったのだが。
ちなみに提供したのは八岐大蛇の肉だ。
今はちょうど日が落ちて、俺にとっては心地よい時間帯。
気温は少し肌寒いが、暖かい肉を貪れば問題ない。
ここは村の中心の広場。
村人たちが色々な料理を用意している。
ステーキ、串焼き、煮込み、その他もろもろ。
子供たちが串肉を持ったまま、中心の大きな焚き火の周囲を走り回っている。
肉をバクバクと食べているブラピの背中に、子供たちが3人乗っている。
ブラピは村の子供たちに大人気。
みんなが「次、乗りたい!」とブラピの周囲で楽しそうにしている。
うーん、俺の村はいつも平和だ。
「いやぁ、アルト様、実に、実に美味しいですなこの肉は!」エレノアが寄ってきて言う。「魔力が、魔力がガンガン増えるぅ!」
エレノアは木製の深い皿に盛られた煮込み肉を食べていた。
「オロッチャンの……唐揚げ美味しい……」
ロロは子供たちに交じってブラピの近くにいる。
「いつの間にかケイオス級のドラゴンを退治するなんてぇ」ビビも唐揚げを食べている。「さっすが最強の四天王! よっ! 暗黒の星! 暗闇の絶望!」
「あんまり褒めるなよ……」
俺は照れて苦笑い。
正直、強いのは羽々斬と叢雲であって、俺じゃない。
でもそれは言わない方がいい。
ハッタリでも俺はそこそこ強いってことにしておきたい。
自分の意志ではないが、俺は魔王軍四天王の1人なのだから。
あー、早く引退してぇなぁ。
「わー、もふもふ! もふもふ!」
子供たちが人狼のジョージに抱き付いて毛を引っ張っている。
ジョージは豪快に笑っているので、割と子供好きなのかも。
アスタロトは行儀良く椅子に座って肉を食べていた。
ロザンナはなぜか地面に正座している。
なんで正座しているのか、あとで聞かねぇとな。
さて、魔王軍の幹部が勢揃いしているのだけど、俺が誘ったのはロロとロザンナだけである。
あとは勝手にやってきたのだ。
実は他にも、勝手にやってきた連中がいる。
「大聖者様、まさか魔王軍までいるとは……」
勇者パーティの騎士が引きつった笑みで言った。
「まぁまぁ、さすがの魔王軍も大聖者様の村で暴れたりしないでしょ?」
魔法使いのポンティは割と楽しんでいるようで、子供たちに交じってブラピを撫でていた。
「ヴィーガン活動家たちが見たら発狂しそうな光景ですね」
聖女カリーナは串肉を食べながら言った。
「何ソレ?」と近くにいたニナ。
ちなみに、ニナのことは誘ったんだよ。
ニナは村人だし。
そしたら漏れなく勇者パーティも付いて来たってわけ。
「動物由来のあらゆる製品を避ける者たちのことです」カリーナが言う。「当然、肉も食べません」
「マジか。そいつら何食ってんだ?」
脳筋な武闘家が目を丸くした。
「あたくしは詳しくは知りません。ただ、最近、とっても強い男性が仲間になって、過激な活動をしているグループがあるとか。神殿にも『光の女神様の使徒なら肉食を止めろ』と抗議に来るみたいで……」
光の女神って肉、食わねぇの?
俺の知ってる自称光の女神は食ってたけどな。
まぁあの人は自称だから関係ないか。
それにもう死んでるしな。
「そのヴィーガン活動家になった強い男性、ボサボサの長い黒髪に、上半身裸で、マッチョだそうです」
カリーナがジッと俺の方を見た。
なんだろう、俺はその男性を知っているような気がしてきたな。
そう、ベジタリアンなオッサンだ。
「いやいや貴様、ケイオスが人間に交じって過激な活動とかありえんだろう! 人類消し飛ぶぞ」
エレノアがキッパリ否定した。
肉を食うことに夢中だと思っていたら、ちゃっかり話を聞いていたんだな。
エレノアの否定で、「まぁそうだよなぁ」という雰囲気に。
いや、あのオッサンならやりかねない。
1回ちょっと、確認だけしておこう。
だって俺、ケイオスのオッサンを監視してることになってんだよ。
その監視の役目が忙しいってことで、色々と用事を断ってるわけで。
ケイオスのことを何も知らないのは、ちょっとマズいと思うんだ。
今まで完璧に放置してたけども。
「領主様、領主様!」
ほろ酔い気味のリクが寄ってきた。
リクは普段から女の子みたいで可愛いけど、酔ってると更に可愛いな。
騎士と武闘家がリクを見て照れている。
そんな2人を見てニナが「あれあたしの弟、男だからね?」と釘を刺した。
「もうすぐ冒険に出るわけですけどぉ」
リクが俺に寄りかかったので、俺は支えてやる。
「覚えてますかぁ?」
「もちろんだ」
俺はリクの頭をナデナデ。
冒険には俺も一緒に行くことになっている。
俺だけでなく、エレノアとブラピも一緒だ。
まぁ、冒険者ギルドに到着して、そこからリクが慣れるまでの間だけどな。
「わたくしも! わたくしも!」
エレノアが背伸びして頭を突き出してくるので、俺はエレノアの頭も撫でた。
コホン、とポンティが咳払い。
「わたしも」
なんでだよ。
「では俺も」と騎士。
だからなんでだよ。
「御利益ありそうだもんな」と武闘家。
ねぇよ。
◇
俺はロザンナの隣に腰を下ろした。
なぜか勇者パーティ全員の頭を撫でたあとのこと。
「なんで正座してんだ?」と俺。
ロザンナは一度、遠くを見るような仕草をした。
「……罰正座……」
「なんだって?」
「……10日間、座るときは全部正座……」ロザンナがブルッと一度震えた。「そして心の中で『魔王城の破壊と玉座の破壊を阻止できなくて申し訳ありません』って唱えろ、って総務に……」
「そ、そうか……」
総務こわーい。
俺が少し引いた様子だったからか、ロザンナはニコッと笑顔を見せた。
「大丈夫だよ! ぼく慣れてるから!」
慣れてるの!?
おかしい、ロザンナは魔王代理のはずなのに。
まさか、総務に真の魔王がいるのか?
「それはそうとアルト、大蛇の肉、本当に美味しいね」とロザンナ。
「ああ。想像以上だった。ドラゴン肉との食べ比べをしようと思ってんだ」俺が言う。「でも肝心のドラゴン肉の在庫がないわけで」
ふむふむ、とロザンナが頷く。
「そこで、ちょっと最前線で肉だけ回収してこようと思うんだ」
「うん。いいと思うよ。ついでにドラゴンたち滅ぼしてくれてもいいよ?」
よくないよなぁ!?
貴重なお肉を絶滅させるなんて俺にはできねぇ!
いや、そもそも、俺にそんな力ねぇよ!
「冗談だよ」ロザンナが肩を竦める。「アルトはこの件から手を引いてるもんね」
魔王軍、人間、ドラゴンの領土分割問題のこと。
「ああ。俺が手を出すなら、世界を手放した意味がない。それより」俺は真剣な口調で言う。「最前線ってどこだ?」
俺が聞くと、ロザンナがガクッとなった。
「本当に興味ないんだね! ぼくビックリしちゃった!」
「一応、旅団の連中のことは気にしてるぞ」
エレノアが勝手に報告してくれるし。
「そっか。みんな頑張ってるから、たまには褒めてあげてね?」
「そうだな」
仕方ないからお土産でも持って行くか。
「えっと、対ドラゴンの最前線は……」
ロザンナが指で空中に地図を描く。
正しくは、指先の魔力を発光させて、その場に残しているので絵を描いたように見えるのだ。
「だいたいこの辺りかな」
ロザンナは分かり易いように、最前線を赤い魔力の線で示した。
「ありがとうな。早速、明日にでも行ってくる」
俺は微笑み、ロザンナの頭を撫でた。
ロザンナは照れた風に頬を染めた。
◇
翌日の午前中、俺は祭りの後片付けに参加した。
片付けが終わると、残り物の肉を昼食に食べ、村人たちがワイワイしているのを眺める。
そうしていると、村人が順番に寄ってきて俺に感謝の意を伝え始めた。
「いいって。気にすんなよ。たまたまいい肉が大量に手に入ったんだって」
あんまり感謝されるものだから、俺はさすがに照れてしまった。
俺は「用事があるから、またな」と自宅に戻った。
実際、用事はあるのだ。
そう、ドラゴン肉の調達!
大蛇の肉とドラゴンの肉、両方をステーキにして食べるのだ。
とりあえず、旅団の連中にお土産を……って、旅団員めっちゃ多いんだけども?
だいたいどこの国でも、旅団といえば二〇〇〇人以上の編制を指す。
「これはアレだな、モノより支援魔法とかの方がいいか?」
ああ、そういえば、副団長のリッチに何か褒美をとエレノアにも頼まれていたなぁと思い出す。
リッチって何が好きなんだ?
確か、リッチはアクセサリーを多く装備してたな。
よし、じゃあリッチには何かアクセサリーをやって、他の団員には支援魔法を使ってやろう。
「アンデッドだし、呪われてる方が嬉しいよな?」
俺は宝物庫からテキトーな呪いの首飾りを取って、【ゲート】で最前線の近くに移動した。
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