4話 羽々斬さん、叢雲さん、やっておしまいなさい
八岐大蛇は所構わずブレスを吐き散らかすが、俺の【シールド】でそれらをガード。
特に何の問題もなく、どの属性も防げている。
これ以上、魔王城に被害が出たらロザンナのストレスが心配だ。
八岐大蛇はとっても強いという話だが、今のところ、そうでもなくね?
寝起きだからか?
いや、そもそも俺の魔力をちょっと吸ったぐらいで復活する奴、強いわけなくね?
「なぁ羽々斬、八岐大蛇って本当に強いのか?」
「え? はぁちゃんに比べたらゴミだよ?」
「そっかぁ、ゴミかぁ」
待て待て。
羽々斬に比べたら何だってゴミだろう。
俺は視線だけで叢雲に補足を求めた。
コホン、と叢雲が咳払い。
お前、喉の調子とか整えなくてよくね?
そもそも喉ないよな?
「ドラゴンという種族の中でしたら」叢雲が言う。「飛び抜けて強いでしょうね」
「なるほど、ありがとう」
やっぱ寝起きだから調子が出ていないだけか。
きっとアレだ、俺の魔力をちょっと吸って復活したのではなく、その前にすでに大量の魔力を吸っていたに違いない。
まぁどうであれ、倒すなら今のうちがいいな。
ロロを見ると、八岐大蛇の尻尾攻撃で遠くに飛ばされたところだった。
ロロちゃぁぁぁぁぁん!!
俺が心の中で叫んでいると、ロロがバビュンと戻って来た。
四天王やっぱすげぇな。
四天王が戦ってるところ、久しぶりに見たけど、やっぱ半端ねぇな。
人狼のジョージも勇者パーティと単独で戦えていたし、俺だけ弱いよなぁ。
あ、ビビの戦闘能力は知らないけど、どうせ強いんだろ?
「ロロ!」ロザンナが叫ぶ。「大人しくしないなら、その子は処分しなさい!」
「え?」とロロが絶望顔でロザンナを見る。
ああ、心が痛むぅぅぅぅ!
ロザンナも心が痛かったのか、顔を歪めている。
でも八岐大蛇がロロのペットって、それ絶対ロロの勘違いだから!
「まぁいっか……」とロロ。
いいの!?
やっぱ思い入れないじゃん!
さっきの絶望顔は何だったのかっ!
「そもそも……捨てろって言われた時に……捨てるつもりだったし……」
どこに?
ねぇどこにその化け物を捨てる気だったの?
「出会いがあれば……別れもある……」
ウンウンとロロが頷く。
万年を生きた賢者のように達観している。
「じゃあ、はぁちゃん斬るぅ♪」
「わたくしも斬りますぅ♪」
二振りの神刀が弾んだ声で言った。
あとはこいつらに任せたら大丈夫そうだな。
「任せた……」とロロが親指を立てる。
よぉし、俺も得意技である高みの見物としゃれ込もう。
世界最強の二振りの太刀筋、しっかり見ないとな。
ワインと安楽椅子が欲しいぐらいだぜ。
とか思っていると、羽々斬が俺の右手の付近に滞空。
叢雲は左手の付近に滞空している。
八岐大蛇は相変わらずブレスを吐いているが、俺の【シールド】に当たって霧散。
「……羽々斬さん? 叢雲さん? 早くやっちゃってくれよ?」
「早く握りなさいよ」
「ささ、わたくしをギューッとしてくださいませ」
「……なんで……ごふぅ」
二振りが両サイドから俺の脇腹に柄で突っ込む。
こ、こいつら……なんて仲良しなんだ……。
俺は仕方なく二振りの柄を握った。
右手に羽々斬、左手に叢雲。
二刀流である。
「いっくよぉ!」「いきますわよ!」
羽々斬と叢雲の声が重なる。
俺は空を飛んで、八岐大蛇との間合いを詰める。
まぁ、世界最強の二振りを同時に扱うという奇跡は、一度ぐらい体験しても損はないだろう。
心配なのは、俺の装備が普段着ってことぐらいか。
「よぉ、俺が振ってもいいか?」
「いいよぉ♪」「いいですわよ♪」
二振りは快く俺の提案を受け入れてくれる。
よぉし、俺は平和主義者で戦闘は苦手だが、魔王城の安寧のために八岐大蛇を倒すぜ!
主に神刀たちの攻撃力で!
あと、八岐大蛇って美味しそうなんだよな!
ドラゴン肉と食べ比べしてみたいなぁ。
そんなことを思いながら、俺はまず右手の羽々斬を横に薙ぐ。
そうすると、8個の首が全部飛んだ。
さすがの羽々斬だな。
次に、左手の叢雲を縦に振る。
そうすると、八岐大蛇の身体が真っ二つに割れた。
うは、こっちもすげぇ切れ味。
◇
(何この人すごい)
叢雲は自分を扱ったアルトに感動すら覚えていた。
この世界に、ここまで軽く叢雲を扱える存在がいるなんて、考えたこともなかった。
(ね? アルトすごいでしょ?)
羽々斬が直接意識に話しかけてきたので、叢雲は意識の中だけで何度も頷いた。
(わたくしたちを振れるだけでも超越的なのに、この人、普通に使いこなしてますわ)
(でしょー? アルトに振られると気持ちいい♪)
ちなみに、羽々斬と叢雲は魔王ロザンナや勇者ニナでも扱えない。
ケイオスですら数回、振れるかどうかというライン。
(これならわたくしの野望『知的生命体を斬り尽くす』が完遂できますわ!)
(それははぁちゃんがやるし! あんたは引っ込んでて!)
◇
いやぁ、ただ刀を振っただけで太古の怪物がアッサリ死んじゃうんだもんなぁ。
やっぱ羽々斬と叢雲はすげぇな。
俺は二振りを順番に振って、血を払う。
それから優しくリリース。
そうすると、二振りは自分の力で宙に浮く。
羽々斬はさっさと自分の鞘に自分で収まった。
「尻尾カミカミ蛇! わたくしの鞘はどこです!?」
「さや?」
キョトンと首を傾げるロロ。
尻尾カミカミ蛇とはロロにピッタリの愛称だな。
てゆーかロロって蛇系の魔物なのか。
自分の尻尾を噛む蛇、か。
どっかで聞いたことあるような?
「さすがだねアルト」
ロザンナが寄ってきて言った。
「いや、俺はただ刀を振っただけさ」
「あ……うん、アルトにとっては、そうだろうけど……」
ロザンナが微妙な表情を浮かべた。
最近、色々な人がこの表情を浮かべる気がする。
と、ロロが空間を裂いて、中に手を突っ込んで何かを探している。
まぁ叢雲の鞘だろうけど。
◇
(アルトってば、あんな歴史に残りそうな攻撃をしておいて、刀を振っただけなんて……超カッコいい)
ロザンナはアルトの腕に自分の腕を絡めた。
アルトは微笑んだだけで、拒絶しなかった。
(オロッチャンってケイオス並か、それ以上の怪物だったのに……。本当にアルトはすごいなぁ。ぼくも頑張らなきゃね)
「ところでこの肉、持って帰っていいかな?」とアルト。
「え? いいんじゃない?」
言いながら、ロザンナはロロを見た。
ロロは亜空間収納から色々なモノをポイポイと取り出し、やっと叢雲の鞘を発見。
叢雲が嬉しそうに鞘に収まった。
「ロロ! 肉貰っていいか?」
ロザンナがロロを見ていたので、アルトはロロの許可を得ようと言った。
「……ロロの尻尾肉?」
「ちげぇよ! オロッチャンの肉だ!」
「いいよ……。ロロの尻尾もいいよ?」
「いやロロの尻尾は遠慮しとく。オロッチャンだけ貰うな」
そう言って、アルトはロザンナから離れる。
ああ、アルトの温もりがぁ、と心の中で嘆くロザンナ。
「おーい羽々斬!」
アルトが呼んで、羽々斬がアルトの側に寄る。
アルトは羽々斬を掴み、鞘から抜いて八岐大蛇を細かく刻んでいく。
(神刀を包丁みたいに使ってるぅ!)
羽々斬が怒るのでは、とロザンナは警戒した。
けれど、羽々斬は特に何も言わなかった。
アルトは八岐大蛇を刻んだ側から、肉を異次元ポケットに仕舞った。
「よし、あとは魔王城の食堂で出せよ」
「あ、悪いんだけどアルト、その、食堂も潰れてるんじゃないかな……あはは……」
総務の連中がブチ切れるなぁ、とロザンナは思った。
「そ、そうだな……じゃあ全部持って帰るか……ここにあっても邪魔だろ?」
「うん。そうしてくれると助かるかな」
ロザンナが言うと、アルトはさっさと残った肉も刻んで異次元ポケットに仕舞った。
◇
さぁて今度こそ帰るか。
とんだお見舞いになっちまったけど、良い肉が手に入った。
そして、魔王城はこれから修復が大変だな。
つか、これだけ大騒ぎだったのに起きない魔王ってすげぇな。
そんなことを思っていると、羽々斬と叢雲がそれぞれの空間に引き上げた。
叢雲は帰る前に「わたくしはすでに、あなたのモノですわ。ふふっ、いつでも呼んでくださいませ。夜のお相手もできますわ」と言った。
夜のお相手って、それあれだろ、夜の殺戮とかそういう感じだろ?
ノーサンキューにも程があるぜ。
あと俺、ヴァンパイアだけど基本的に夜は寝てるからな?
まぁ、羽々斬並の神刀の持ち主になれたというのは悪くねぇけどさ。
ロロも「いいよ、その刀はアルトにあげる」と笑顔だった。
今度ロロにはお礼しないとな。
オロッチャンの肉を料理したら食べるか? と俺は聞いた。
聞いたあとで、ペット(だとロロは信じている)を食わそうなんて俺は何を言っているのだろうと思った。
クレイジー野郎かな?
しかし。
「食べる! オロッチャンって、美味しそうだと思ってたの……」
ジュルリとロロは唇を舐めたのだった。
やっぱ思い入れないじゃん!
――あとがき――
これで『波乱のお見舞い編』は終わりです。
次回はまだプロットが完成していないのですが、
きっと来週の月曜日までにはできるはず!
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