3話 そいつは本当にペットなのか?
「それで俺はどうすればいいんだ?」
「……封印を解くための……魔力を……えっと、正しくは……えっと……」ロロが考えながら言う。「ペットが自力で、回復して……出てこられるように……魔力を……アルトに貰おうと、思って」
ロロが叢雲の錆びた刃を俺の腹に刺そうとする。
「待て待て、刺すな刺すな」
「渡そうとした……だけ」
「そ、そうか。人に刃物を渡す時は、尖ってない方を差し出すんだ」
俺が言うと、ロロはクルッと叢雲を回して刃の方を指で掴む。
「これで、いい?」
ロロは叢雲の柄で俺の腹を突く。
腹を突くんじゃねぇよ。
「ああ、よくできました」
でもとりあえず褒める。
俺は微笑みながら叢雲を受け取る。
「これに魔力を流せばいいのか?」
俺が言うと、ロロが頷く。
「ロロ自身の魔力じゃ、ダメなの?」とロザンナ。
「……ダメ。ロロの……魔力は、原初のアレ的なアレだから……」
ロロが何を言っているのか、俺にはサッパリ分からない。
でもまぁ、魔力を与えるだけなら簡単だし、断る理由はねぇな。
「どれ、やってみるか」
俺は叢雲に魔力を分け与えた。
どんどん俺の魔力を吸う叢雲。
どんどん与える俺。
「……あれ?」ロロが首を傾げる。「アルトって、魔力……ロロより多い?」
「さぁな。ロロちゃんの魔力量、知らねぇし」
と、叢雲がもう魔力いらない、って感じで俺の魔力を拒否し始めた。
俺は魔力を与えるのを止めた。
次の瞬間、叢雲がキラキラと輝き、錆が全て落ちた。
たぶん、付与されている自動修復魔法か何かが発動したのだ。
ということは、中のペットだけじゃなくて、叢雲そのものも俺の魔力を吸ったってことかな?
「わぁ、綺麗」
ロザンナは玉座の背もたれから顔だけ出して言った。
出ておいで、たぶん羽々斬はロザンナのこと斬らないよ?
いや、やっぱ斬るかも。
俺の背後にいた方が安全か。
「ありがとうアルト……オロッチャン、出てきそう」
ロロが嬉しそうに言った。
「へぇ、ペットの名前はオロッチャンってのか。可愛いな」
俺がニコニコと言った次の瞬間。
凄まじい咆哮と共に、巨大なドラゴンが出現し、魔王城が半壊した。
「……し、城が……」ロザンナが泣きそうな声で言う。「総務が……総務が怖い……」
「総務とか言ってる場合か!?」
俺は思わず突っ込みを入れてしまった。
突如、出現したドラゴンは首が8個もあって、身体の大きさも通常のドラゴンの倍ぐらいある。
8個の首がそれぞれ咆哮し、俺は耳を塞いだ。
ロロは平然としていたが、ロザンナはたぶん耳を塞いだと思う。
俺の位置からは見えないけど、気配で。
「オロッチャン、久しぶり!」
ロロが両手を上げて背伸びをする。
んんんん!?
オロッチャンってこの激やばドラゴンのことぉ!?
ロロちゃん、何をペットにしてるのかな!?
「わぁ、こいつアレじゃん」羽々斬が言う。「昔、はぁちゃんが斬ったドラゴンじゃん」
聞いたことあるぞ。
確か、八岐大蛇という名前のドラゴンだ。
突然変異で、世界に一体だけのドラゴン。
ケイオスのオッサンみたいだけど、オッサンと違って本当に強い……らしい。
まぁ見た感じ凄く強そうだ。
てゆーか、ロロのペットを瀕死にしたの羽々斬かよ!
「あぁ、お腹が軽くなりましたわ」
叢雲が言った。
叢雲の声は落ち着いたお嬢様って感じの声だった。
やっぱ喋るんだなぁ、と俺は思った。
と、八岐大蛇の首の1つが、炎のブレスを吐いた。
ちょっ!
俺は自分の周囲に【シールド】を展開。
俺、ロロ、ロザンナ、神刀二振り、それから魔王の玉座を守った。
まぁ、玉座だけ守っても城がもうボロボロなんだけどね!
魔王さん起きたらブチ切れるんじゃない?
てか、八岐大蛇が暴れてるから、起きてなんとかしてくれねぇか?
「オロッチャンは……それぞれの首が、違う属性のブレスを吐くの……」
ロロが自慢気に言った。
うん、お前、ペットはもうちょっと選ぼうな!?
うちのブラピとか大人しくてモフモフで可愛いぞ!
あ、首が多いところだけ共通点。
「魔王城にあまり人がいなくて良かった……」とロザンナ。
確かにな、と俺も思った。
ちなみに俺は今も玉座に座ったままだ。
立ち上がるタイミングを逃したので、座り続けている。
◇
(アルト、こんな恐ろしいドラゴンを前にしても、姿勢の1つも崩さないなんて)
ロザンナは背もたれから顔を出して、アルトを見ていた。
(さすが魔神。風格が違う。ぼくも魔王らしく、堂々としてないと……きゃぁ!)
ロザンナは背もたれから出ようと思ったが、八岐大蛇と目が合ったのでビビって動きを止めた。
「ロロ、ロロ」ロザンナは声が裏返りそうになったが、なんとか普通っぽく言えた。「魔王城は今日からペット禁止! 捨ててきなさい!」
「がーん」
ロロが酷く衝撃を受けたような表情を見せた。
ロザンナは少し心が痛んだが、引くわけにはいかない。
だって、今も八岐大蛇は色々なブレスを吐き散らかしているのだから。
まぁ、全部アルトが【シールド】で防いでいるけれど。
◇
「斬ろう!」と元気よく羽々斬。
「よろしいですわ」叢雲が言う。「二度とわたくしのお腹に入れないよう、存在を消滅させましょう」
おおい、八岐大蛇は一応、ロロのペットなのだが!?
いや、ロロも思い入れとかは全然なさそうだけども。
それでも一応、ペットなんだよなぁ。
「羽々斬、待て! ロロちゃん!? 捨てる前にとりあえずオロッチャンを宥めてくれ! 飼い主だろ!?」
「任せて……」
ロロはグッと親指を立てて、俺の張った【シールド】から出た。
その瞬間、ベシャッっと八岐大蛇に踏まれた。
ロロちゃぁぁぁぁぁん!!
「大丈夫……」
ロロは八岐大蛇の足を持ち上げて、横にどかす。
「小さいけどロロちゃんは力持ちだなぁ!」と俺。
ロロはドヤ顔を披露してから、宙に浮いて八岐大蛇の顔の1つに近づく。
そして。
バクっと食べられるロロ。
ロロちゃぁぁぁぁぁぁん!!
もう八岐大蛇はロロを飼い主だと認識してなくね?
敵意と殺意がマックスじゃね?
ペットだと思ってるのロロの勘違いだろこれ。
なんて恐ろしい勘違いをするんだロロは。
「……オロッチャンは、ヤンチャ……」
グイッと八岐大蛇の口をこじ開けつつ、ロロが言った。
八岐大蛇がロロを吐き出す。
ロロが壁に叩きつけられ、そのまま埋まった。
ロロちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!
「……ふふっ、じゃれてくるの可愛い」
壁から抜け出したロロが言った。
じゃれてなくね!?
八岐大蛇の方は殺す気だよな!?
エレノアならもう死んでるぞ!
ロロはさすが四天王!
やっぱ四天王ってかなり強いよな。
俺、四天王に相応しくなくね?
「ねぇアルト、斬っちゃダメなの?」と羽々斬。
「この人が今のはぁちゃんの持ち主ですの?」と叢雲が俺を見る。
たぶん見てると思う。
叢雲は刀だから目はないけど、魔力で見ていると思う。
「まぁね」羽々斬が胸を反らして(羽々斬に胸はないが)自慢気に言う。「はぁちゃんに相応しい相手」
「なるほど」
頷き、叢雲が俺に寄ってくる。
その間も、ロロと八岐大蛇が戦っている。
いや、ロロは遊んでいるつもりのようだが。
「はぁちゃんみたいな下品な刀は捨てて、わたくしを所有しませんこと?」
「刃を首から離してくれねぇかな?」
叢雲さん、それ脅迫じゃね?
ロザンナがソッと俺から離れたのが分かった。
うーん、ナイス判断!
できれば俺も助けてくれ!
「何言ってんの! アルトは、はぁちゃんの相棒だし! そうでしょ!?」
「お、おう……羽々斬さん、股間に刃向けるの止めてくれるかな?」
羽々斬は自分で鞘から抜け出し、いつでも俺の股間を突ける位置に滞空している。
「痛い痛い叢雲さん、薄皮斬れてる、薄皮斬れてるから」と俺。
「わたくしを所有しますか? 返事は『了解』か『承認する』か、サービスで『オッケー』などの砕けた表現でも構いませんわ」
「はぁ!? アルトはあんたみたいなお堅い刀なんて好きじゃないし! ねぇアルト!」
俺は、なぜ刀に迫られているのだろうか?
それも世界最強クラスの二振りに。
おかしいな、俺はただ、ロザンナのお見舞いに来ただけなのに……。
一体、どうしてこんなことに……。
豊満な肉体の大人のお姉さん2人なら、俺だって嬉しいけど、こいつらめっちゃスレンダーだし、すっげぇ固いからなぁ。
あと、触る者みな斬り刻む系女子だし。
「返事がありませんので、とりあえず軽く斬りましょう」
「わぁい! アルトを斬るの久しぶり!」
二振りが嬉しそうに俺を斬ろうとしたので、俺は身体を霧に変えて回避。
しかし魔王の玉座はバラバラになった。
「ああ! 玉座がぁぁ! 総務が、総務がぁぁ!」
少し離れた場所で、ロザンナが頭を抱えた。
……俺のせいじゃ、ねぇよな?
――あとがき――
お知らせ
本作は9月20日頃、ダッシュエックス文庫より1巻が刊行されます!
是非、手に取ってみてくださいね!
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