Short Story 漆黒の雷電って俺のこと?

1話 そうだ事前調査をしよう

――前書き――

お待たせしました!

連載を再開します。

2章という形ではまとまらなかったので、

短い話を投稿していこうと思います。

○○編、××編、みたいな感じで。

――ここまで――


 俺は安楽椅子でユラユラしながらワインを飲んでいた。

 特にやることのない、ノンビリとした時間。

 俺はこういう時間が大好きだ。

 ガラス戸に目をやるが、郵便配達大好きの暗黒鳥が訪れる気配もない。

 ワインを一口飲んで、サイドテーブルにグラスを置いた瞬間、俺は閃いた。


「そうだ、先にちょっと冒険者について調べておくか」


 俺はリクと一緒に冒険者になるという約束をしている。

 しかし冒険者について、あまり詳しいことを知らないのだ。

 なんせ、俺は冒険に出るタイプじゃねぇからな。


「長い人生、1度ぐらいは冒険者やるのも悪くねぇ」


 話のネタにもなるし、エレノアも連れて行って鍛える予定である。

 俺は効率的なヴァンパイア。

 たった1つの事項で3つをこなすのさ。

 話のネタ、エレノアの鍛錬、リクの保護者役である。


「確かカイラが冒険者だったな……住所知らねぇから、ネネに聞くか」


 カイラの母親がネネである。

 俺は立ち上がって、普通に歩いて普通に玄関から外に出た。

 そして村の中をノンビリと歩いてネネの家を目指した。


 途中、子供たちが寄ってきて「領主様だぁ!」「領主様が外に出てる!」「遊ぼう! 遊ぼう!」と俺の周りを駆け回る。


 俺は子供たちをまとめて空に浮かせて、高い高いをしてやる。

 子供たちは雲の上まで飛んで行って、そして落ちてくる。

 子供たちは「もっともっと!」とキラキラした瞳で言う。


「お前ら防寒魔法は覚えてるよな?」


 俺が聞くと、1人を除いて強く頷いた。

 人間には、というか生物には得手不得手があるので、使えないのは仕方ない。

 俺は頷かなかった1人に防寒魔法をかける。

 それを見て、他の子たちは自分に防寒魔法をかけた。


「よし、空の旅を楽しめ」


 俺は子供たちを遙か上空まで上昇させた。

 確か空の上の方は空気も薄かったが、まぁ子供たちが自分でなんとかするだろう。

 少し待っていると、子供たちが楽しそうな顔で落下してくる。

 俺は彼らの落下速度を徐々に緩やかにしてやる。

 彼らはキャッキャッと笑いながら着地。


「よし、じゃあ俺は用事があるから、あとはお前らで遊べ」

「「はーい」」


 子供たちは素直に手を振った。

 俺も手を振り返して、ネネの家へと向かった。

 途中、村人たちが挨拶をくれるので、俺も全部挨拶を返す。

 ちょいちょい世間話も挟むので、ネネの家の前に辿り着くのに割と時間を食った。

 まぁ、別に急ぎの用ではないのだけれど。


 リクと冒険に出るのは、まだ数日先のことだ。

 さて、ネネの家は村では普遍的な二階建ての住居である。

 もちろん庭付き。

 俺は玄関に向かって、ドアノッカーをコンコンする。

 しばらく待つと、ネネが玄関を開けた。


「おや? アルト様、どうしたのです?」


 ネネは白髪を頭の上でお団子に結んでいる。

 若い時はブルーの髪だったはずだ。

 今のネネは老婆と呼ぶに相応しい見た目だけど、さて何歳だったっけか?


「よぉ。ちょっと話せるか?」

「ええ。もちろんです」


 ネネが俺を中に招き入れる。

 俺たちは応接室に移動。

 ネネがソファを示して「どうぞ」と言ったので、俺はソファに腰を下ろした。


「ネネはいくつになったんだ?」

「わたしゃ、もう80歳ですよアルト様」


 言いながら、ネネがお茶の用意をしてくれる。


「大人になったな」


「ええ、ええ、大人になりました」ネネは蒼炎を使ってサッとお茶を沸かしつつ言う。「大人になったら結婚してくれるというアルト様の言葉を信じて待っていましたのに」


「ははっ、俺も待ってたんだぜ?」


 この村の子供たちは、だいたいみんな「大人になったら領主様と結婚する」と言うのだ。

 しかし実際に俺と結婚した子はいない。

 ネネも普通に村の幼馴染みと結婚した。

 まぁ、ネネの旦那は数年前に先立ってしまったけれど。


「あら? だったらもっと、積極的になれば良かったですなぁ」


 ネネは笑いながら、自分の分と俺の分のお茶を注ぐ。

 それからテーブルを挟んだ対面に腰を下ろした。

 俺は早速、ネネの淹れたお茶を一口飲む。

 うん、熱いけどそれがまたいい。


「それでアルト様、今日はどういったご用件で?」

「ああ、カイラのことを知りたいんだ」

「あの子の婚期はとぉぉぉっくに過ぎてますよ?」

「ちげーよ、そうじゃねぇよ」


 俺は苦笑いしつつ、事情を説明する。


「ほう。ではアルト様は冒険者についてカイラに話を聞きたい、と?」

「ああ。できれば体験なんかもしたいと思ってる」


「なるほど、なるほど」ネネが頷く。「しかしながらアルト様、カイラはすでに冒険者を引退しております」


「ええ!?」


 俺はビックリした。


「カイラの虫退治を手伝ったのって、あれいつだっけ?」


 カイラは子供の頃から虫が苦手で、冒険者になってからも変わらなかった。

 依頼だかなんだかで虫を退治する時、俺に助けを求めてきたのだ。


「ああ……確か30年は前の話ですよアルト様」

「そっか、30年ってことは、今カイラっていくつだ?」

「55歳ですね」

「そっかぁ。55歳かぁ」


 人間なら色々と衰える頃だな。

 引退していても不思議ではない。


「ですが今もギルドで裏方か何かをやっているようですよ」

「お? それなら問題ねぇな。どこのギルドか教えてくれねぇか?」


 むしろ裏方の方が都合いいかもな。

 事務員とかそういうのだろ?

 話を聞いて、普通の冒険者の依頼を受ける流れとかを教えてもらおう。

 で、軽く体験させてもらえばオッケー。


 要はリク(とついでにエレノア)とスムーズに冒険できればいいわけだし。

 ネネは手紙の封筒を俺に渡した。

 カイラがネネに宛てた手紙だ。

 差出人の住所は、エーテルピーチのある大陸だった。


「ありがとうネネ」


 俺は封筒をテーブルに置き、残りのお茶を飲み干す。


「いえいえ、アルト様が行けばカイラも喜ぶでしょう」


 そうだといいな、と俺も思った。

 カイラとは虫退治を手伝って以来、会ってない。


「じゃあ、またな」


 俺は【ゲート】を使って自宅に戻った。

 手土産があった方がいいよな、久しぶりに会うわけだし。



 ネネはティーカップを片付けながらふと思った。


「はて……カイラの話では……アルト様はSSランクの冒険者だったはず……」


 なんで今更、冒険者について聞くのだろう?

 不思議だなぁ、とネネは首を傾げた。

 しかし、アルト様ならきっと何か深いお考えがあるのだろう、とネネは納得した。



 自宅に戻ると、エレノアが裏庭で農作業をしていた。


「ふはははは! この虫ケラめが! わたくしの野菜に寄ってくるとはいい度胸だ! 闇の恐ろしさを教えてくれるわ!」


 なぜか酷く上から目線で虫を潰していた。

 いや、虫を取るのは大事な作業だけども。

 俺は2階のバルコニーから裏庭を見下ろす。

 作業着に麦わら帽子のエレノアが俺に気付き、手を振った。

 俺も小さく手を振っておく。


「アルト様! わたくしは今! 虫ケラどもに地獄を見せている最中であります!」

「お、おう! 頑張れよ!」


 エレノアに農作業を教えたのは俺である。

 いや、エレノアを魔王軍四天王にするために教えたのだけど、実は四天王と野菜作りには何の関係もなかった。

 そう、俺の勘違いだったんだ。


 でも勘違いに気付いた時には、俺はもうエレノアに畑を分け与えていたのだ。

 だからそのまま、予定通りに野菜作りを教えたって訳。

 エレノアも楽しそうだし、無駄ではないってことで。

 俺はとりあえず、室内に戻ってブラピの頭を全部撫でる。


 ブラピは拾った頃より随分と毛並が良くなっている。

 うん、モフモフで気持ちがいい。

 それから、俺は宝物庫に移動し、カイラへの手土産を見繕う。


「まぁ無難にエリクサーがいいか」


 エリクサーの瓶を3本、棚から取って異次元ポケットに仕舞う。

 俺はエレノアを連れて行こうか一瞬だけ迷ったけど、やはり1人で行くことにした。

 あくまでこれは事前調査だしな。

 というわけで、俺は【ゲート】を使って一旦エーテルピーチの山に移動。

 そこから空を飛んで、ネネに教えてもらった住所を目指した。


――あとがき――

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