EX06 プレゼントした武器は絶好調
なんか凄くヤバい双剣もらったんですけどぉ?
リク・ライネンは村から少し離れた草原で、魔物退治をしていた。
領主であるアルトが、餞別にと双剣をプレゼントしてくれたので、早速試し斬りとしゃれ込んだのだ。
リクの双剣は光沢のある黒っぽい銀色で、ディテールがやたら繊細で美しい。
羽のように軽く、少しも重さを感じない。
スパスパと、魔物を刻んでいく。
なんかもう、魔物を斬っているというか、豆腐を切っている感覚である。
「しかもこれ、ナチュラルに複数の魔法が付与されてる上、剣そのものが魔力を帯びてる……」
なぜか聖なる属性と闇の属性が混ざり合った謎の魔力である。
世界中探してもこんな妙な魔力を持った剣は存在しないだろう、とリクは思った。
しかもその魔力が絶大も絶大。
単純に魔力を斬撃として飛ばしてみたら、小高い丘が消し飛んだ。
「……うっそぉ……領主様……これ、姉貴のライトニングよりヤバいんじゃ……」
魔力を飛ばす時は、もっともっと繊細にコントロールしないと、大きな被害が出てしまう。
「はっ! もしや、この強大な魔力を使いこなせるようになったら一人前と、そういうことですか領主様!」
リクは更に試し斬りを続ける。
周囲にはもう魔物はいないのだが、リクは虚空を斬っているのだ。
要するに素振りである。
「すごい、魔法を使う時、この双剣の魔力を借りられる……」
何コレ、伝説の武器?
あ、いや、とリクは深呼吸。
「領主様は言っていたじゃないか。『俺の手作りだから、見た目重視だけど、駆け出しの時なら十分使えるだろ』と。つまりこれは、領主様が製作した武器! ってゆーか、駆け出しどころか引退まで使えますけど!?」
これは絶対、将来は新たな伝説の武器として図鑑に載るに違いない。
一通り、思い付く限りの試し斬りを行ってから、リクはその場に寝転がった。
空は高く、風は気持ちいい。
「僕ももうすぐ冒険者か……。できるなら、少しでいいから、領主様とパーティ組んでみたいな」
アルトから学べることはまだまだ多い。
それに、純粋に冒険者になったアルトを見たい、というのもある。
「……お願いしてみよっかなぁ……」
アルトは村人に対して面倒見がいいので、少しぐらいなら一緒に冒険してくれる可能性は十分にあった。
「うん。聞くだけ、聞いてみよう!」
リクは起き上がり、村に向けて駆け出した。
◇
「あはははは! 闇よ病みよ! ドラゴンどもを食い散らかせ! あはははは!」
どこかイッちゃってる瞳で、ロザンナは漆黒の鎌を振り回していた。
別に踊っているわけではない。
ドラゴンたちと戦っているのだ。
アルトがこの『
ちなみに、聖滅の鎌という名前はロザンナが付けた。
「気持ちいいっ! ドラゴンが! 豆腐みたいに! 斬れる!」
あはははは、とロザンナが高笑いをしながらドラゴンを抹殺していく。
ここは広い荒野で、ドラゴン対魔王軍が激しくやり合っている最前線だ。
ロザンナは魔王なのに、試し斬りがしたくてしたくて、前線まで出て来たのである。
ドラゴンを倒して、ゾクゾクと身を震わせるロザンナの姿は、完璧に頭がアレな人である。
そもそも、ロザンナはアルトの前ではかわい子ぶりっ子しているが、魔王である。
周囲から『陰鬱と闇と、憂鬱と病みの化身』と呼ばれるほど性格にも難のある魔王である。
「おのれ魔王めが……」
ロザンナの前に、竜王が舞い降りた。
「ふふっ、ドラゴンの長が、こんな前線に出てきちゃって、いいの?」
すでにケイオスはどこかに姿を消し、その上アルトが監視をしている(とロザンナは思っている)状況。
ドラゴンたちを率いているのはこの竜王である。
「貴様……自分が魔物たちの長だと忘れてないか?」
竜王の言葉に、ロザンナは「そうだった……」と呟くのだった。
「それより貴様、その武器は何だ? まるでこの世の闇を全て詰め込んだかのように
「ふふ、ふふふふふ」
ロザンナは嬉しくなって笑い、鎌に頬ずりした。
もちろん、刃ではない部分に、である。
「……気色悪いな貴様……」
竜王が若干、引いた。
ちなみに、周囲ではドラゴンたちと魔物たちの激しい戦闘が続いている。
「これはねぇ、アルトがね? ぼくのために、このぼくだけのために、作ってくれた武器なの……えへへ」
デレデレと、鎌に指を這わせながらロザンナが言った。
ロザンナの笑みはどこか壊れていて。
「……貴様、心を病んでいるのか?」と竜王。
「し、失敬な! ぼくは元気だし!」
ロザンナが怒って言った。
「まぁどちらでも良い、貴様は今日、ここで死ぬのだ魔王よ!」
竜王が吠えた。
ケイオスほどではないが、それでも長い年月を生きたドラゴンの咆哮。
弱い魔物たちは身が竦み、ドラゴンたちは士気を上げた。
◇
「一緒に冒険者になって欲しい?」
俺が安楽椅子に揺られてダラダラしていると、リクが遊びに来た。
で、とりあえず2人でチェスをやっていたのだが。
「はい……。少しの間でもいいんですけど……。領主様と、その、一緒に冒険したいなって」
「ふむ……とりあえずチェックメイト」
「ふぁ!?」
「だいぶ良くなってるぞ」
チェスの打ち筋のことだ。
なんでも囓るだけの俺だが、チェスは割と長いこと趣味として続けているので、セミプロぐらい強い。
少なくとも、自分ではそう思っている。
最近、チェスの大会とか出てねぇから、自分の実力を客観視できていない可能性もあるけど。
「ど、どうも……。それでその、どうですか? 冒険者……」
リクはおっかなビックリ言った。
なるほどなぁ、と俺は理解した。
リクはニナほど脳天気ではない。
つまり、1人で知らない大陸に行って、1人で冒険者になるのが少し不安なのだろう。
まぁ駆け出しの間は、たまに手伝ってやってもいいか?
それに俺が一緒なら、リクが魔王軍と戦うこともねぇだろうし。
純粋に冒険を楽しめるか。
「まぁそうだな。少しぐらいならいいぞ」
「本当ですか!?」
「ああ。でも本当に少しだぞ?」
俺は基本、引きこもりだからな。
「はい! うわぁ、嬉しいなぁ! 領主様と冒険! 姉貴が聞いたら羨ましがるだろうなぁ!」
そうなのか?
ニナって冒険者になりたかったのか?
聞いたことないけど、リクが言うならそうなのかも。
「あ、そうだ、エレノアも誘っていいか?」
「領主様の娘ですよね?」
「ああ。ついでだから、あいつの能力を底上げしようかと思ってな」
いつか四天王の座を譲るため、エレノアの経験値を上げておきたい。
冒険者って割と色々なことをするらしいから、エレノアの人生にもプラスになるだろ、たぶん。
「領主様の娘なら、きっとすごく強いんでしょうね」
「いや? 全然、弱いぞあいつ」
「え?」
「ニナに手も足もでなかったぞ」
「……そ、そうなんですか?」
俺はコクンと頷いた。
今はどうか知らないけど、リクはニナより強かった。
とはいえ、今のニナは勇者だし、さすがにリクより強いだろ。
そして、エレノアとリクならどっちが強いんだろうか?
種族的にはエレノアだけど……。
エレノアが子供ってのと、リクが勇者の弟ってのがあるから、ちょっと分かんねぇな。
「まぁ弱いからこそ、鍛えないとって話さ」
「それはそうですね」とリク。
まぁ俺は平均より少し弱かったけど、そのまま生きたけどな。
鍛えたりは、してないんだよなぁ。
平和主義だったので、戦闘能力はそこまで必要じゃなかったし。
そして今の俺は、なんと!
ちゃんと大人ヴァンパイアの力がある!
だからますます、鍛える必要ないってなもんだ。
何事も平均でいいんだよ。
突出する必要はねぇな。
これ、長生きの秘訣な?
――あとがき――
一旦ネタ切れです!
6月中には2章が開始できると思いますので、少々お待ちください。
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