EX05 アルト、武器を作る


 俺は自宅の横の工房に足を踏み入れた。

 かつて、趣味で鍛冶やら何やらをやっていた頃に作った工房だ。

 最近はめっきり使わなくなっていたが、まぁ大丈夫だろう。

 制作中の物は何もないので、工房内は割と整頓されている。


 というか、そもそも俺ってばほとんど魔法と魔力で作るから、あんまり道具とかいらないんだよな。

 工房に置かれているのは、ほとんどが原材料だ。

 さて、まずはロザンナの武器から作ってやるか。


「アルト様ー! アルト様ー!」


 大声で俺を呼ぶ声が、外から聞こえた。

 この声はエレノアだな。

 俺は工房出て、大きな声で返事をした。

 そうすると、エレノアが走って来た。

 そしてそのまま俺に突進し、突っ込んで来る。

 俺はエレノアを受け止め、その場でクルッと回転した。


「アルト様! 本当なのですか!?」

「何がだよ!?」

「あのクソ魔……じゃなかった、ロザンナに地上最強の武器を作ってやると言ったのですか!?」

「言ってねぇよ!」


 ロザンナの悪癖、話を大きくするが発動したようだ。


「しかしあのクソ……ロザンナは嬉しそうに自慢して回っていましたよ! それはもう、魔王城全域に届くぐらいの大声に魔力まで乗せて! それはもう、本当にウザくて殴りたくなるほど自慢気に!」

「殴ってみたか?」


 俺が言うと、エレノアはビクッと身を竦めた。


「ままっま、まっさかー」えへへ、とエレノア。「そんなことしたら、わたくし、半殺しにされてしまいます」


 だよなぁ。

 ロザンナってそういや、どのぐらい強いんだろうか。

 昔、人間たちに虐められていた頃と比べたら、本当に強くなってるけども。

 少なくともエレノアよりは強いから、旅団長以上、四天王未満ぐらいか?


「アルト様?」

「あ、悪い。とりあえず、武器を作ってやるのは本当だけど、俺の作る武器ってのは割と見た目重視だし、地上最強とか絶対無理だぞ」


 この世界には羽々斬のはぁちゃんがいる。

 更にはぁちゃんが言うには、同じぐらい強いライバルの『叢雲っち』という刀が存在するらしい。

 その時点で、最強の武器とか作れんだろう。


「……武器の質はまぁいいでしょう。どうせ凄いに決まってますし」エレノアが言う。「なぜあのアマ……ロザンナに武器を作ってあげるのか、というのが問題ですアルト様」


「何の問題もなくね!? お前には包丁……違う、ショートソードあげただろ?」

「はい、今も装備しております」


 エレノアのローブから、柄の部分がはみ出している。

 エレノアは俺のあげた『星降りの剣』を腰に装備しているのだ。


「それでアルト様、どうしてロザンナに武器を?」


 エレノアが俺をジッと見詰めるので、俺は経緯を説明した。


「なるほど! ではただのお礼なのですね!?」

「そうだ」

「なるほどなるほど! ロザンナの言い方だと、まるでアルト様が愛の告白とともに武器をプレゼントするみたいな感じでしたが、安心しました」


 ロザンナ!?

 お前、どこまで盛ったの!?


「製作するところを見学してもいいですか?」

「ああ。いいぜ」


 俺は再び工房に足を踏み入れ、エレノアも続く。


「素材、何がいいかなぁ?」


 俺は工房に並べられているいくつかの箱を見ながら言った。

 箱の中には金属やら鉱物やらが入っている。

 エレノアが箱の1つに近寄る。

 そして、中の金属に手を伸ばす。


「待てエレノア! そいつはミスリルだ!」

「ミスリルっ!?」


 エレノアが手を引っ込めた。


「危うく、死ぬところでした……」


 エレノアの表情が引きつっている。


「いや、それは大袈裟だぜ。魔力で手を保護すりゃなんともねぇよ。それに、そのまま触っても『あつっ』ってなるぐらいさ」


 ミスリルは魔法の銀と呼ばれていて、魔力を帯びている。

 しかも聖属性なのだ。

 そう、俺たちの天敵。

 俺たちアンデッドは銀にも聖属性にも弱い。

 そしてミスリルはその両方を有している。


「アルト様はそうでしょうね……」


 エレノアは何かを諦めた風に言った。


「ロザンナって種族知らないけど、ミスリルに弱いってことあるかな?」

「さ、さぁ……わたくしもあいつの種族は知りませんが、魔族なので好きではないかと」


 魔族は銀が嫌いな奴が多い。

 弱点ってほどじゃねぇけど、生理的に受け付けない、みたいな。

 まぁ、ミスリルはやめとくか。

 むしろリクの武器はミスリルで良さそうだな。

 武器種は双剣とかカッコいいかもな。

 リクは器用だから双剣も扱えるし。


「……しかし、よくもまぁ、貴重なミスリルがこんな大量にあるものですね……」

「ん? 貴重? ミスリルが?」


 こんなもん、山ほど転がってるだろ?

 俺、ミスリル鉱山を3つぐらい知ってるぞ?


「……何でもないです」


 エレノアが目を伏せた。


「どうすっかなぁ……」

「ちなみにですが、他にどんな伝説の金属がおありで?」


「おいおい、伝説の金属なんて持ってねぇよ」俺はカラカラと笑った。「ここにある物の大半は、ありふれたもんばっかだぜ?」


 珍しくて貴重な金属も持ってはいるけども。


「……絶対、嘘だぁ」


 エレノアが小声で言ったので、よく聞こえなかった。

 まぁいい。


「アダマンタイトってやつと」

「アダマンタイト!? どちゃクソ硬いっていうあの!?」

「ああ、確かに硬いな。だから武器に向いてるんだ」

「もうそれでいいのでは……」

「でも魔力とか帯びてねぇし、お礼の品にしては、ありきたり過ぎねぇか?」

「……他に何がありますか……?」


 エレノアはちょっと引きつった表情で言った。


「オリハルコン」

「ああ! 出た! オリハルコン! 伝説の金属!」

「大袈裟だなおい」

「全然ありふれてませんが!?」

「そうか?」


 俺はオリハルコンの鉱床、知ってるけども。

 そこに行けばありふれている。


「アルト様には普通かもしれませんがっ! オリハルコンは珍しい金属です! その証拠に! オリハルコン製の武具なんて、ほとんどないでしょう!?」

「俺持ってるぞ」

「さすがアルト様!」


 エレノアはテンション高く、両手を叩いた。


「本当、大袈裟だなぁ」俺は微笑みを浮かべた。「本当の珍しい金属ってのは、そこの箱に入ってる緋色のやつだな」


 俺が指をさした箱を、エレノアが覗き込む。


「……何ですか、この金属、わたくしより魔力が上なのですが……」

「ヒヒイロカネ」

「はい神話級の金属頂きましたぁぁ!」


 なぜかエレノアは万歳三唱を行った。

 あと、頂くな。

 ヒヒイロカネは俺もこの箱に入ってる分しか持ってねぇんだ。


「さすがにヒヒイロカネは貴重だから、オリハルコンが妥当かなぁ」


 相談のお礼にヒヒイロカネ製品を貰ったら、ロザンナが困っちまうだろうな。


「……そこらの鉄で良いかと思いますがね、わたくしは」


 エレノアは小声だが俺に聞こえるように言った。

 しかし俺はスルーした。

 俺はオリハルコンを一塊、箱から出す。

 そして空中に浮かせ、黒炎で溶かす。


「……あ、そういう作り方なんですね……さすがアルト様」


 エレノアが感心した様子で俺の作業に見入っている。

 溶かしたオリハルコンに俺の魔力を織り交ぜて強化。

 俺の魔力を混ぜたので、色が黒くなったが、それがまたカッコいいのだ。

 それから大雑把に鎌の形に変更する。

 次はディテールを整えていく。

 気長な作業さ。


 俺は魔力でちょっとずつ、鎌の見た目をカッコよくしていく。

 デザイン重視さ。

 ティテールが整ったら、瞬間的に冷やして固める。

 最後に、刃を魔力で研いだら完成っと。

 俺は鎌の柄を持って、何度か振ってみた。

 うん、いい感じだな。


「もう完成したんですか!?」

「ああ。俺は職人じゃねぇし、趣味の範囲だから、まぁこんなもんだろ」

「さすがアルト様! オリハルコンを短時間で加工してしまうとは!」

「教えてやろうか? 1番大事なのは魔力操作で……」

「いえ、そもそもわたくし、まだ黒炎を使えませんし」


 エレノアが両掌を俺に見せ、一歩後退した。

 そういや、エレノアはまだ蒼炎しか使えないんだったか。

 まずはエレノアの基本スペックを上げねぇとな。

 早く四天王の座を譲りたいし。


「さて、仕上げってわけじゃ、ねぇけど、オマケでいくつか付与しとくか」

「……アルト様、付与とは?」

「ん? ああ、魔法を付与しとくんだよ。ほら、異次元ポケットとかも、空間魔法が付与されてるだろ?」


「なるほど!」エレノアが両手を叩く。「しかし、それだと豪華すぎやしませんか?」


「そんな大したもんじゃねぇよ。自己修復と……」

「自己修復するオリハルコン製の武器とか……」


 エレノアが引きつった笑みを浮かべた。


「状態異常無効と即死無効でいいか」

「ロザンナを不死身にする気ですか!?」


「大袈裟だなおい!」俺はビックリして言う。「無効って言っても、俺の魔力を上回る状態異常や即死攻撃は無効にできねぇよ」


「わぁい、実質不死身だぁ」


 なんだよ実質不死身って!

 なんか勘違いしてるみたいだけど、面倒だしスルーしよう。


「次はミスリルで双剣を作るぞっと」


 リクへの餞別であり、本題だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る