EX04 プレゼントをあげたい


 リクが冒険者になるために旅立つそうだ。

 今すぐってわけじゃなくて、年内にって感じだけど。

 俺は安楽椅子に揺られながら、リクに何か選別をやらねぇとな、と考えていた。

 俺の隣の床で、ケルベロスのブラピが丸くなっている。

 首の1つが昼寝をしているようだ。


「何がいいかなぁ?」


 ニナの時は少しも迷わなかったなぁ。

 だって、ニナは剣術しかできなかったから、剣を渡しておけばそれで良かった。

 反面、リクは何でもそつなくこなす。

 ぶっちゃけ、ニナよりリクの方が勇者に向いていると思う。


「何でもできる奴には、何を渡せばいいんだろうなぁ?」


 当然だが、返事はない。

 俺の呟きは虚空へと消え去った。

 ん?

 返事?


「そうだ思い出したぞ!」俺はガバッと立ち上がる。「返事をくれる鏡があったじゃねぇか!」


 突然立ち上がった俺に、ブラピが少し驚いていた。

 俺はブラピに微笑みかけてから、宝物庫へと急いだ。

 俺は宝物庫を引っくり返す勢いで鏡を探した。

 奥の奥、色々な品をかき分けた最奥に、布をかぶった姿見を発見。

 これだこれ。

 俺は埃を被った布を取り払う。

 そうすると、長年放置していたとは思えないほど綺麗な鏡が姿を現した。

 枠は金で、派手な加工が施されている。

 アンティーク、って感じのデザイン。


「久しぶりだな鏡。元気か?」

「……」


 鏡は返事をしなかった。

 いや、普通の鏡は返事をしないものだけど、こいつは喋るはずなんだ。


「おーい、もしかして拗ねてんの?」


 はあちゃんこと羽々斬の例もあるので、俺は鏡を磨くことになるかも、と思った。


「あ、えっと、もしかして自分に話しかけてますぅ?」


 鏡が若い男の声で言った。


「ああ、そうだ。久しぶりだな」

「あ、えっと……その恐ろしい顔は……アルトさん?」

「恐ろしくて悪かったな!」


「あ、いや、失礼」鏡が言う。「他人と話すのが久しぶりで、言っていいことと悪いことの区別がちょっと曖昧で……えへへ」


「そ、そうかよ……。長く放置してて悪かったな」

「あー、いいですよ別に。自分はこの世界に存在する多くの鏡を渡って、人々の生活とかを監視……じゃない、覗き……じゃない、えっと観察していたので」


 楽しく人生を謳歌していた、ってことだよな?


「早速なんだけど、質問させてくれ」

「なんなりと」


 この鏡は嘘を吐かない。

 正確には、真実を告げるんだっけ?

 まぁとにかく、こいつに質問したら正解が返ってくるという優れ物だ。


「リクの欲しい物って何だ?」

「さぁ?」

「さぁじゃねぇよ!」


 俺は危うく、鏡に頭突きしそうになったね。

 しないけどさ。


「何も欲しがっていないのですから、さぁとしか答えようが……」と鏡。


 マジかよ!

 リクって無欲なの!?


「じゃあ俺はリクに何をプレゼントすればいいんだ?」

「さぁ」


 んんんん、役に立たねぇぇぇ!

 俺は深呼吸して、落ち着く。

 質問を変えよう。


「この件、誰に相談すればいい?」


 俺が言うと、鏡に映った俺の姿がロザンナの姿に変化した。

 なるほど、ロザンナは確かに俺の知り合いの中では比較的、常識人の部類だ。

 話を大きくする悪癖があるけど、そこに目を瞑ればいい相談相手になってくれそうだ。


「ありがとな鏡」

「いえいえー」


 俺はすぐに【ゲート】を使って魔王城の前へと移動。

 この城塞都市は外からの魔法を全部弾くので、中に転移できないのだ。

 俺は城塞に入ろうとしている列をすり抜けて、警備をしている者たちの方へと移動。


「アルト様!?」


 ラミアの警備員が俺を見て目を丸くした。

 周囲がざわざわとし始める。


「四天王だ」「四天王最強だ」「ケイオスに勝った男」「ついに彼が……」「人類を滅ぼす日が来たのか」


 などなど。

 いや、俺は最強じゃない。

 オッサンが弱っていたか、噂ほど強くなかったかのどっちかだ。

 そして俺は人類を滅ぼしたりしねぇよ。


「入るぞ? ロザンナに用がある」

「ロザンナ様に!? どうぞどうぞ!」


 俺はあっさりと警備を突破。

 これが顔パスってやつだな。

 中に入ったので、俺は【ゲート】を使用して自分の部屋へと移動。

 都市の中に入れば、魔法は普通に使える。

 あくまで外からの魔法を弾くだけなのだ。


「アルト様!?」メイドの少女が驚いて尻餅を突いた。「おおお、お帰りなさいませ!」


「あ、ああ。大丈夫か?」


 俺が手を差し伸べると、少女は「ひっ」と後ずさった。

 ……いや、噛まねぇよ?

 俺は人畜無害なヴァンパイアだからな?

 俺は溜息を吐いてから、手を引っ込める。


「お前、ロザンナを呼んできてくれねぇか?」

「ろろろろろ、ロザンナ様を!?」

「ああ。頼む」

「ははは、はいぃぃぃぃ!」


 少女は立ち上がり、急いで俺の部屋を出た。

 ふむ。

 ロザンナって魔王軍じゃ割と立場あるんだな。

 確か幹部って話だったか?

 みんなロザンナのこと様付けで呼んでるんだよなぁ。

 情報部の部長とかなのかも。

 俺はソファに座って、目を瞑ってダラッとする。

 そうしていると、かなり焦った様子でロザンナが駆け込んできた。


「どうしたのアルト!? 緊急事態!? ケイオスがまた暴れてるとか!? それとも異世界から侵略者が来た!?」

「んなわけあるかよ」


 ケイオスはまだしも、何だよ異世界からの侵略者って。

 小説の読み過ぎだろ。


「落ち着いて、隣に座れ」

「あ、はい」


 俺が言うと、ロザンナは素直に俺の隣に腰を下ろした。


「仕事中だったか?」


 言いながら、俺はロザンナの頭を撫でた。


「大丈夫だよ。ぼくはいつだってアルト優先」


 やっぱロザンナっていい子だよなぁ。


「プレゼント何がいいか聞きたくてさ」

「プレゼント!? ななな、なんでもいいよ!?」

「いや、それが一番困るんだよ」

「そ、そうだよね! えっと、じゃあ、花嫁衣装とか!?」

「なんでだよ!? 相手男だぞ!?」

「ぼくは女だよ!?」

「知ってるよ! 何言ってんだ!?」


 俺は驚いてロザンナを見詰めた。

 ロザンナも俺を見詰めた。

 そして。


「ああああああ! ぼくじゃないんだぁぁぁぁぁ!」


 ロザンナが顔を真っ赤にして俺のことをバシバシと叩き始める。

 痛い、痛いぞロザンナ。

 お前、昔に比べてかなり強くなってんのな。

 ロザンナが叩き終わったあと、俺が言う。


「……えっと? 大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ! 誰に、プレゼントするのか、ぼく聞いてないけど!?」

「そうだったか? 悪い。えっとリクだ」

「分からないけど!?」


 だよなぁ。

 俺はリクが村の子で、冒険者になるために旅に出るから選別をあげたい、とちゃんと説明した。

 ちなみに、ニナの弟であることは伏せた。


「……冒険者ねぇ……」


 ロザンナは少し嫌そうな表情を浮かべた。

 あれもしかして、昔ロザンナを虐めていた人間たちって冒険者か?

 だとしたら、リクが何になりたいかは伏せた方が良かったかも。


「最近の冒険者はさぁ、なーんか魔物退治に積極的でさぁ」ロザンナがぶつぶつと文句を言う。「まぁ戦争中だから仕方ないけど、すっごいウザいんだよねぇ」


「……だよなぁ」


 うーん、困ったなぁ。

 冒険者になると、リクも魔王軍と戦う可能性がある。

 前からそこが少し引っかかってたんだよなぁ。


「でもなんか」ロザンナが言う。「絶滅しそうな魔物には手を出さないって協定ができたみたい」


 おお、あの駆け出したちが上層部を説得したのかも。

 ってことは、俺も絶滅危惧種の保護に貢献したってことだな。


「そりゃいいことだ」


「まぁね」ロザンナが肩を竦める。「とりあえず冒険者なら、エリクサーを渡しておけば、いいんじゃない?」


「無難すぎないか?」

「エリクサーだよ!? 何が無難なの!?」

「ありふれてるから……」


「ああ、そう……」ロザンナが呆れた風に溜息を吐いた。「じゃあ武器は?」


「あいつ何でも使えるから、何を渡せばいいか分からん」

「……好きな武器とか聞いてないの?」

「ないと思うぞ」


 何も欲してないしな、リク。


「じゃあ……逆にアルトが彼のメイン武器を選んであげたら?」

「ああ、なるほど。そういう考えでいいのか!」


 俺はガバッと立ち上がった。


「ついでに俺が自分で作ってやろうっと」

「それはぼくも欲しいんだけど……」


 ロザンナが上目遣いで俺を見る。


「分かった。相談の礼に、ロザンナのも作ってやるよ。好きな武器は?」

「鎌」

「分かった。任せとけ」


 俺は【ゲート】を使って自宅に戻った。

 早速、武器を作るぞっ! 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る