32話 ゲームルーザー
おうちに帰りたい。
俺は激しくそう思った。
あれよあれよと言う間に、俺と聖女――カリーナが神聖騎士団を率いることに決定してしまった。
誰か1人ぐらい異を唱えたらどうだ?
いや、むしろ俺、なぜ異を唱えなかった?
今もそうなのだが、雰囲気的に突っ込みを入れられないのだ。
パッパッと話題は移り変わるし、なんだろう、付いていけない。
こいつら今、決戦の日取りを決めてんだぜ?
俺はその日、絶対に家から出ないと決めた。
神聖騎士団なんて率いてたまるか。
俺はヴァンパイアだぞ。
闇に生きる者で、神聖とは真逆の存在なのだ。
仮にそうでなかったとしても、危険な最前線なんて行きたくない。
そんな俺の決意など関係ないという風に、色々な事柄がトントンと決定していく。
もっと検討しろよ。
◇
「うがぁぁぁぁ!! 貴様!! もう少し手加減したらどうだ!!」
エレノアがぶち切れて叫んだ。
「いや、弱すぎんだろ……」
ゲイルと名乗ったケイオスが苦笑いを浮かべる。
ここはアルトの家の食堂。
2人は夕食とリバーシを楽しんでいる最中である。
エレノアはドラゴンシチューを啜り、ゲイルは野菜を生で囓っている。
2人は食堂のテーブルに向かい合わせで座っていて、テーブルには白く染まったリバーシの盤面が置いてあった。
白がゲイルで、黒がエレノアだ。
エレノアは「闇を統べる夜の覇者であるわたくしは当然、黒を選択するぅ!」と格好付けて言ったのだが、結果は見ての通りである。
黒は白に駆逐されてしまった。
「ち、違うゲームだ! 違うゲームをするぞ!!」
エレノアは沢山のゲームを食堂に持って来て、テーブルの上に載せていた。
「おう、なんでもいいぞ」
ゲイルは余裕の表情で言った。
「ぐぬぬ、ぐぬぬ……」
その表情が気に入らないエレノアは、次のゲームを真剣に選択する。
「これだっ! やはり王道、定番のチェスで勝負だ貴様!」
そして5分が経過し。
「チェックメイトだ嬢ちゃん」
「うがぁぁぁぁ!! 貴様!! さてはチェスの名手だな!! 卑怯だぞ!! プロならプロと最初に言え!!」
エレノアが涙目で叫んだ。
「いや、俺様は別にプロじゃねぇし」
事実、ゲイルのチェス歴は大したことない。
昔、何度かアルトの相手をしたことがある、という程度だ。
しかもアルトには手も足も出なかった。
と、【ゲート】の反応があってエレノアがビクッと身を竦めた。
「まずいっ! クソ魔王だ!」
「クソ魔王?」
エレノアの発言に、ゲイルが首を傾げた。
次の瞬間、魔法陣が上下に浮かび、ロザンナが現れた。
「エレノア、ぼくの悪口言った?」
「いいいい、言ってませんが?」
エレノアの視線が天井の隅の方を見る。
(相変わらず勘のいい魔王め……)
「よぉ」ゲイルが右手を挙げる。「俺様はゲイル。小僧……アルトの友人だ。嬢ちゃんは誰だ?」
「うん?」とロザンナがゲイルを見る。
(大した魔力もなさそうだし、人間かな?)
ロザンナはゲイルを雑魚だと認識した。
実際、ゲイルは自分の魔力を欠片も外に漏らしていなかった。
「ぼくはアルトのお嫁さんだよ」
「「!?」」
エレノアとゲイルが同時に目を丸くした。
(おのれクソ魔王め! わたくしのアルト様に惚れたというのか!? 許さん! 許さんぞロザンナ! 必ずや亡き者にしてくれるわ!)
「何?」
「なんでもありません! ロザンナ様とアルト様が結婚すれば、向かうところ敵なしですなぁ! はっはっは!」
エレノアは大袈裟に笑った。
ゲイルは色々と察したようで、「嬢ちゃん……」と哀れみの視線をエレノアに送っていた。
「ところでアルトは?」とロザンナ。
「アルト様はまだ戻っていません」とエレノア。
「そう。じゃあ待たせて貰おうかな」
ロザンナがエレノアの隣に座った。
(わたくしの隣に座るなぁぁぁ!! あっち行け!!)
心の中でエレノアは悪態を吐いていた。
「ロザンナ様はアルト様に何用で?」とエレノア。
「それをわざわざエレノアに説明しないといけないの? ぼくが?」
ロザンナがニッコリと笑ったので、エレノアはビクッと大きく身を竦めた。
「ままっま、まさか! 説明など不要でございます! わたくしのような木っ端ヴァンパイアが、出過ぎたことを言いました! 申し訳ございません!」
「ふぅん。まぁいいけど」ロザンナが肩を竦める。「いくつか質問と確認があるだけだよ」
「そ、そうでございますか。えへへ、えへへへ」
愛想笑いを浮かべるエレノア。
しかし心の中では。
(そんなくだらない用事だとは! おのれアルト様の貴重な時間を何だと思っているのだ! ついでに怖いからそんな程度のことで来るな!)
「おーいエレノア嬢ちゃん」
「なんだゲイル」
エレノアがキッとゲイルを睨む。
自分より弱い(と信じている)相手には強気なエレノアである。
「次は何のゲームするんだ?」
「ふむ。そうだな……次は……」
「ぼくもできるやつね?」
ニコニコとロザンナが言った。
ぐぬぬ、とエレノア。
「何? ぼくは交ぜたくないと?」
「まさか! ロザンナ様と遊べるなんて、魔族冥利に尽きますね!」
「そう。なら良かった」ロザンナが言う。「それで? 何をするの?」
「で、では無難にポーカーなどいかがでしょうか?」
「俺様はいいぜ」
「ぼくもいいよ」
「そ、それでは、最初はわたくしめが親を……」
エレノアがトランプを出して、シャッフル。
「そうだ! 罰ゲーム有りにしませんか?」
閃いた、とばかりにエレノアが言った。
「俺様は別にいいぜ」
「ぼくもいいよ。その方が勝負に熱が入るだろうしね」
(ぐふふふふ。愚かなるロザンナめ! 貴様を裸に剥いてやるわ! わたくしはポーカーの申し子! 自称だけれど、わたくしの実力は確かなもの!)
エレノアは意気揚々と「負けた者は1枚ずつ服を脱いでいきましょう!」と言った。
20分後。
「うぇぇぇん……ぐすっ……わたくしの純潔がぁぁ」
エレノアが半泣きで言った。
エレノアは白いフリフリの肌着に、同じく白いフリフリのドロワーズ姿だった。
ちなみにドロワーズにはリボンが付いている。
「さぁ、また負けたのだから早く脱いで?」ロザンナが淡々と言う。「上にする? 下にする?」
「お前、容赦ねぇな……」ゲイルが引いた様子で言う。「さすがに可哀想だろ……」
「うぅ……ゲイル、お前いい奴だな……」
ぐすん、とエレノアが涙を拭う。
「ダメダメ」ロザンナが淡々と言う。「ルールなんだから、ちゃんと脱いで貰わなきゃ。それにこの子は甘やかすと付け上がるタイプだから」
「うぅ……この極悪非道な魔王めが……」とエレノア。
「魔王とはそういうもの、だよ?」
ニッコリと笑うロザンナ。
「この借りは……いつか必ずぅ……」
エレノアは泣きながら肌着に手をかけた。
その時、【ゲート】の反応があって魔法陣が上下に出現。
次の瞬間にはアルトとニナがそこに立っていた。
「あ、アルト様ぁぁぁぁ!!」
エレノアが涙を零しながらダッシュし、アルトに抱き付いた。
アルトはエレノアを受け止め、「なんだ?」と呟いた。
「アルト様、あの魔王が」エレノアがロザンナを指さす。「わたくしを虐めるのですぅぅ!」
「魔王?」
アルトはゲイルの方を見た。
「俺様じゃねぇよ。こっちだこっち」
ゲイルがロザンナを指さし、アルトはロザンナに視線を移した。
「違うよアルト」
ロザンナが可愛らしい笑顔で経緯を説明した。
「要するに」ニナが呆れた風に言う。「あんたがゲームで負けただけじゃない」
「う、うるさいこの鬼ババア!」
「だ、誰がババアですって!?」
ニナが拳を振り上げたので、エレノアは更にギュッとアルトに抱き付いた。
「落ち着けニナ。ここにババアはいない。だろ?」
「……まぁ、それはそう」
ニナが頷いて拳を下ろした。
「ところで、お前らなんで俺の家にいるんだ?」
アルトはゲイルとロザンナを順番に見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます