29話 真の仲間とは


 俺、ポンティ、騎士の3人は、特に問題もなく武闘家が閉じ込められている塔に到着した。

 エレノアとニナが大暴れしているので、全ての目がそっちに向いている。

 あと、俺はヒッソリと行動するの得意。

 塔の前には見張りがいたけれど、ポンティが魔法で眠らせた。

 中に入ると、らせん状の階段があった。


 階段を上ると部屋があって、部屋のドアに小さな覗き窓がある。

 その窓から中を覗くと、今にも死にそうな囚人と目が合った。

 武闘家ではない。

 俺たちは更に階段を上る。

 部屋を1つずつ確認して、最上階の部屋に武闘家がいた。


「大聖者様?」


 疲れた様子の武闘家が言った。


「成り行きで」と俺は肩を竦めた。


 俺が下がって、代わりに騎士が覗き窓へ。


「大丈夫か? 助けに来たぞ」

「おお、騎士、お前も無事だったか」

「わたしもいるわよ」


 ポンティが騎士を押しのけて、覗き窓を見る。


「魔法使い、無事で良かった。聖女と勇者はいないのか?」

「聖女は神殿に引き渡されてるわ。勇者は騎士団と戦ってるわ」

「騎士団と……って、勇者1人でか!?」

「1人で十分でしょ……勇者なのよ?」


 ポンティが苦笑いしながら言うと、武闘家も「それもそうか」と苦笑い。

 やっぱニナって強いんだなぁ、と思った。


「それじゃあ、逃げましょうか」とポンティ。


「いや、このドアは特殊な素材で作られていて……」

「ちょっと下がれ」


 武闘家が話している途中で、俺はドアを蹴破った。


「……オレの攻撃じゃ……ビクとも……しなかったのに……」


 武闘家が口をあんぐりと開けて言った。

 人間ってやっぱ非力なんだな、基本的には。

 ニナは勇者だから特別なのだ。


「自信なくすぜ……」


 呟きながら、武闘家が部屋を出た。


「ところでお前ら」俺はふと、疑問に思っていたことを口にする。「なんで役職で呼び合ってんだ?」


 俺のことも大聖者と呼ぶし、ちょっとだけ不思議に思っていたのだ。


「いきなり、どうしたんですか?」


 騎士がビックリした風に言った。


「唐突なのは分かってんだ。脈絡もなかったしな。でも今、聞いておかないと、次に聞く機会が訪れるか分からないだろ?」


 用事は終わったのだから、俺は家に帰る。

 そしてお前たちは魔王軍と一緒にケイオスと戦う。

 その間、俺は家でノンビリ過ごすのだ。

 つまり、もう二度と会わない可能性もあるってわけ。

 こいつらケイオス戦で死ぬかもしれないし、生き残ったとしても、俺はわざわざ会いに行ったりしないだろうし。


「真の仲間じゃないからよ」とポンティ。


 騎士と武闘家がウンウンと頷く。

 俺は小さく首を傾げた。


「俺は将来、騎士団長になる男です」騎士が言う。「しかし現状では実績が足りないので、仕方なく勇者に同行しています」


「わたしは七大魔法使いの末席に名を連ねたけど」ポンティが言う。「壁にぶつかって実力が伸びなくなったの。それで、何か新しい刺激になればと勇者に同行してるの」


「オレは新たに誕生した勇者に挑んで半殺しにされて」武闘家が言う。「いつか倒そうと思って側にいるだけだ」


 なるほど。

 そりゃ確かに真の仲間じゃないな。


「聖女も神殿の命令で仕方なく同行しているだけです」と騎士。


「みんな魔王を倒したら元の生活に戻るし、必要以上に深入りしないようにしてるの。危険な旅だし、誰か死んじゃった時に悲しまないように、ってのもあるわね」


「よく分かった。お前たちは烏合の衆ってことだな」俺は淡々と言った。「別にいいんだけど、それじゃあ、助けに来なくて良かったんじゃねぇの?」


 俺、来たくて来たわけじゃないんだが。

 俺、巻き込まれただけなんだが。

 3人が顔を見合わせて、「そういえば、そうだな」みたいな微妙な表情を浮かべた。


「ポンティなんて俺の家まで乗り込んで、『助けて大聖者様ぁぁぁ!』なんて泣き叫んでたのに」

「な、泣き叫んでなんて!! ないんだから!! ね!!」


 ポンティが顔を真っ赤にして首を振った。

 その様子を見て、騎士と武闘家が噴き出した。

 確かにポンティの子供みたいな言動は少し面白い。


「ま、まぁとにかく」ポンティが咳払いしつつ言う。「真の仲間じゃないって言っても、見捨てるのは後味が悪いでしょ? それだけよ」


「ああ、そうだな。うん。そうだ」と騎士。

「おお、それなら納得だ」と武闘家。


「へぇ。まぁいいや。帰るぞ」


 俺は踵を返した。

 真の仲間ではないけれど、それなりの仲間ではある、ってことだな。


「あ、大聖者様」ポンティが言う。「ニナとエレノアちゃんに合図を送ってください」


「あ、ああ、そうだったな」


 俺は立ち止まって、天井を仰ぐ。

 そして右手を上に向けて伸ばす。

 手の中に白炎の【ファイアーボール】を1つ創造。

 俺の魔力だと分かればいいので、それほど魔力は込めない。


「白い……炎……?」


 武闘家が呟いた。

 俺は【ファイアーボール】を天井に向けて放った。

 そうすると、【ファイアーボール】は一瞬で天井を消し炭に変えて、天高く舞い上がる。

 俺がグッと拳を握ると、高高度で【ファイアーボール】が爆裂。

 空を焼き尽くす白い炎が広がった。

 広がって、そして。

 そして……消えないなぁ。


 空が白く燃え続けている。

 あっれー?

 おっかしいなぁ。

 そんな魔力込めてねぇんだけどなぁ。

 これ、大丈夫か?

 俺は冷や汗を流しつつも、想定外だとバレないように「ふっ」と息を吐いて、階段を下り始める。


 なんなら【ゲート】で家に帰りたいぐらい、俺は焦っていた。

 火事になったらどうしよう?

 でも、俺がやったってバレてるので、逃げるのはナシだ。

 少なくとも、空で燃えている白炎が消えるのは見届けてから帰ったほうがいい。

 塔を出ても消えてなかったら、水の魔法か何かで頑張って消そう。

 それに俺は人畜無害のヴァンパイアを自称しているのだから、放火魔になるわけにはいかない。

 長生きの秘訣は、なるべく敵を作らないことだ。



 空が白く燃え上がった。

 エレノアはあまりの光景に固まってしまった。

 魔法使いのオバさんも硬直している。

 正直、あの白い【ファイアーボール】が低空で爆発していたら、エレノアは生きていなかった。

 それどころか、地上の生物は全滅したのではないか、と街を見下ろしてエレノアは思った。

 まぁ、アルト様がそんなミスをするはずがない、と安心するエレノア。


「アルト様……白炎まで使えるんですね……」


 エレノアは畏敬の念を込めて呟いた。

 アルトは完璧に白炎をコントロールしている。

 しているように見えたのだ、エレノアには。


「わたくしがあの境地に辿り着くのはいつのことやら……」


 溜息を吐いたあと、エレノアは【ゲート】を使ってアルトの家に戻った。

 元々、そういう作戦だったのだ。

 騎士と武闘家を救出したら、アルトが何か魔法を使って知らせる。

 そうしたら、エレノアはもう撤退する。

 アルトの家の縁側に座ったエレノアは、空を見上げる。

 こっちではもう夕方だった。

 夕日が美しい。


「でもまさか、伝説の白炎で合図を送るとは……さすがアルト様……新たなる始祖様……。わたくしの身も心も捧げるに相応しいっ!」



 国を1つ滅ぼしたケイオスは、遠くの空が白く燃えるのを見た。


「小僧の魔力か……」


 それは身が震えるほどの魔力で。


「しかも神々の炎だと……」


 ケイオスは震えていた。

 怖いからじゃない。

 嬉しいからだ。


「くはははははは! やはりこの俺様と対等に戦えるのは小僧だけだ! いいだろう小僧! 比武をしようじゃないか!」


 ケイオスはアルトを殺さないと決めている。

 だからこそ、戦闘ではなく試合形式で武を比べようと思ったのだ。

 元来、ケイオスは戦うことが大好きなのだ。

 ケイオスは人間形態からドラゴン形態に戻って、すでに滅ぼした国に向けてブレスを吐いた。

 それは真っ白なブレス。

 神々の炎と呼ばれる、白炎のブレス。

 歓天喜地のケイオスからの挑戦状。

 自分も神代の白炎を使えるぞ、という知らせ。

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