28話 白き炎は神の炎(ただし使い道はない)
俺は今、ポンティと王城の地下牢に潜入中だ。
なぜって?
巻き込まれたから仕方なく、一番安全そうな役割を選んだから。
エレノアの役は国中の強い連中を敵にするから危険だし、ニナの役目も騎士たちを相手にするから危険である。
よって、潜入が一番安全だと俺は判断したってわけ。
地下牢の見張りはポンティが魔法で眠らせたので、特に問題もなく俺たちは地下牢を進んだ。
牢に閉じ込められている犯罪者たちが、鉄格子の間から手を出したり、何か奇声を発したりしている。
一瞬ビビったが、よく考えたら俺はヴァンパイアだから、普通の人間に負けることはない。
つまり、この犯罪者たちが七大魔法使いだとか、勇者だとか、騎士団長だとか、そういう特殊な人間でない限り、恐れる必要はないということ。
「騎士!」
最奥の牢の中に、お目当ての騎士がいた。
「魔法使い……と大聖者様!?」
騎士は驚いた様子で俺を見た。
俺だって驚いてるよ。
本当は家でゆっくりワインでも飲んでいたかった。
「待って、すぐに開けるわ」
魔法使いが鍵の束から、一個ずつ鍵を合わせていく。
ちなみに、鍵の束は眠らせた見張りから奪った物だ。
「おい、この牢は特殊な牢で、鍵は隊長格しか持ってないぞ」
「そうなの?」
魔法使いが固まる。
「隊長格ってのは?」と俺。
「はい大聖者様」騎士は相変わらず、俺には丁寧な言葉を使う。「地下牢の見張りも騎士団の役割で、施設護衛隊という部隊が守っているのです」
「ほうほう」
「それで、俺の入っている牢は特殊な罪人用で、中では魔力を抑制するための陣が敷かれていて」
「ほうほう」
俺は鉄格子の隙間から手を差し込んでみた。
確かに、魔力が少し減ったような感覚に陥った。
「なるほど。確かに抑制されてんな」
まぁ、でも、全魔力の1割とか、多くても2割ぐらいしか制限されてない。
「でもまぁ、このぐらいなら問題ないんじゃね?」
「えぇ!?」騎士が目を丸くする。「俺は魔力が完全に遮断されてしまって、身体強化すらできない状態なのですが!?」
「マジかよ」
人間用の陣ってことか?
俺にはそこまでの効果がない。
「はい」騎士が頷く。「更にこの鉄格子は、特殊なコーティングが施されていて、魔法を撃とうが剣で斬ろうが、傷1つ付かないという優れ物なのです」
「……ってことは」魔法使いがギリッっと歯噛み。「施設護衛隊の隊長を倒さなきゃ、あなたを助けられないってことね?」
「ああ。せっかく来て貰ったが、無駄足になったな。先に武闘家の方を助けてやってくれないか? あいつ国家反逆罪だから、ほぼ死刑確定だ」
「どこにいるの?」
「死刑囚を幽閉する塔だ。この牢よりヤバいから、対策してから助けに行ってくれ」
「分かったわ。必ずあなたも助けに戻るから……」
ウルウルとした瞳でポンティが言った。
騎士も神妙な様子で頷いていた。
「いや、今、助けたらいいだろ別に」
別にそんな凄いコーティングされてないだろ、この鉄格子。
ちょっと防御力を上げる魔法が施されてるだけだろ。
◇
「私は七大魔法使いの6席にして王宮魔法使いの隊長よ。お嬢ちゃんの所属は?」
魔法使いのオバさんが堂々とした様子で言った。
「わたくしは……いや、わたくしは誰でもない」
エレノアは名乗ろうとして止めた。
理由は単純である。
ここでもしエレノアが「我こそは夜の女王にして闇の化身! 血と戦慄と絶望の使者! 魔王軍、師団長にして未来の四天王、ヴァンパイアクイーンのエレノアだ!」と名乗ったとしよう。
しかしながら、今のエレノアの姿はタオルを日除けにした麦わら帽子を被り、服は作業着である。
そう、明らかに農夫の娘!
ギャップが大きすぎて、変な空気になりそうだとエレノアは感じたのである。
「そう、だったら吐かせるまで」
オバさんが右手に蒼炎の【ファイアーボール】を創造。
「ほう。貴様、人間のくせに蒼炎を操るとは驚いたぞ」
蒼炎は普通の火の上位互換である。
普通の火、蒼炎、黒炎、白炎という順番で強くなる。
「死ぬまでには黒炎だって身に付ける予定よ、お嬢ちゃん」
現時点で、黒炎を使える人間は七大魔法使いの首席と次席のみ。
魔族や魔物なら割と使える者もいる。
オバさんは更に、左手にも蒼炎の【ファイアーボール】を創造。
「わたくしだってその予定だ」
エレノアも両手に蒼炎の【ファイアーボール】を創造。
オバさんが驚いて口を半開きにした。
「その年齢で蒼炎? だったら死ぬまでに伝説の白炎さえ……」
白炎は古代の文献にその存在が残っているし、エレノアも存在は知っている。
だが眉唾ものだとエレノアは思っていた。
白炎は『神の火』とも呼ばれていて、国1つを焼き尽くすほどの威力だとされている。
白炎が実在するならば、確かにエレノアなら死ぬまでには使えるようになる可能性も十分にある。
「絶望するな人間。わたくしは魔族だ。貴様らより魔法に優れているのだ、生まれつき、な」
ニヤリとエレノアが笑った。
「ちっ、見た目よりずっと年寄りってことね!」
オバさんが両手の【ファイアーボール】を放った。
エレノアも同じように発射し、【ファイアーボール】同士が空中で衝突。
その瞬間に一気に燃え上がり、周囲を灼熱地獄へと変貌させる。
オバさんもエレノアもシールドを展開し、熱と広がる炎を遮った。
地上で同じ状態になったら、半径50メートルは焼き尽くされる。
それが、蒼炎の【ファイアーボール】4個分の威力だ。
◇
「大聖者様」ポンティが言う。「さっきの話、聞いてな……」
「いや待て魔法使い」騎士が言う。「大聖者様には何か策があるのではないか?」
策なんてねぇよ。
普通に鉄格子を壊せばいいんじゃねぇの?
特殊なコーティングなんて本当にされてるのか?
見る限り、ちょっと防御力を高める魔法がかかってるだけ、なのだが。
「まぁ試してみよう」
俺は右手の人差し指に白炎を作った。
マッチぐらいの火の大きさに調整し、グルッと円を描くように腕を動かして、鉄格子を焼き切った。
俺が切った鉄格子たちがパタンと倒れ、円形の抜け穴が完成。
やっぱただの防御アップ魔法じゃねぇか。
何が特殊なコーティングだよ。
「これで逃げられるな?」
俺は白炎を消して言った。
しかし2人の反応がない。
どうしたのかと思ったら、2人とも口と目を大きく開き、小さく俺を指さしていた。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「だだだだだ、大聖者様、いいいいい、今のは」
ポンティの声が震えている。
「ああ、見たことないか? 白炎って言って、古の魔法なんだよな。昔、魔法にハマってる時に使えるようになったんだけど、葉巻の火を点ける時ぐらいしか使い道がなくてな」
白炎はあまりにも実用性がなかった。
料理をする時は普通の火で十分だし、暖炉には火の精霊が住み着いているから、俺が火を点ける必要ないし。
庭でゴミを焼く時ですら、蒼炎で事足りる。
焼き芋をする時は普通の火の方がいい。
「まぁ古の魔法とかロマンだよな。使う機会が少なすぎて、今ちょっと使ってみたってわけだ」
せっかく覚えたのだから、使える時は使いたい。
割と苦労したのだ、覚えるの。
もちろん、聖属性よりは楽だったが。
「す、すげぇぇぇぇぇぇ!!」
騎士が感動した風に叫んだ。
「弟子に! わたしを弟子にしてくださぁぁぁい!! なんなら魔王軍に入りますぅぅ!!」
ポンティがその場に平伏した。
「ちょっ、落ち着けお前ら!」
俺は確かに、せっかくの機会だから白炎使ったよ?
実はちょっと自慢しようと思って使ったよ?
これが古代のロマンだぜ、ってな感じで。
「ま、まずは武闘家を助けに行こう。な?」
俺は照れてしまったので、強引に話を変え、踵を返した。
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