5話 幹部たちとのご対面


「更に瀕死の魔王様を命がけで守った。そうだね?」


 別の奴が言った。

 たぶんこいつが参謀だな。

 事前にエレノアに聞いていたから間違いない。

 銀髪に青い瞳の青年。

 肌は白いが服は黒。

 右腕に大きな蛇が絡みついていて、更に椅子が小さなドラゴンである。

 そう、こいつ、生きたドラゴンを椅子にしているのだ。

 恐ろしい奴だぜ。


「そんなことも、あったな」


 俺は話を合わせた。

 だって、知らないって言ったらこじれるじゃん?

 こじれたら俺、死ぬじゃん?

 てか俺が本当に四天王なんだなぁ。

 こいつら誰1人、疑問に思ってないんだけれども。

 俺の魔力とか測って「こいつ雑魚じゃん」みたいなこと言われるかと思ってたけど、そんな様子はない。


「とはいえ」人狼が言う。「200年間、一度も顔を出なかったが……実力は落ちておらんだろうな?」


「なんだと貴様!」エレノアが食ってかかる。「アルト様にかかれば、貴様など5秒で挽肉ぞ!」


「よせエレノア!」


 俺は強い口調で制止した。

 俺の生死がかかってるからな!

 平均よりちょっと弱い、長生きだけが取り柄の俺が、魔王軍四天王の1人に勝てるわけねぇだろって。


「敬意を払うんだエレノア」俺は諭すように言う。「相手は四天王の1人。それを忘れるな」


「……す、すみませんアルト様……」

「謝るのは俺にじゃないだろう?」


 俺が言うと、エレノアは不服そうな表情で人狼を見た。

 そして。


「申し訳、なかった……ジョージ殿……」


 ぐぬぬ、って感じだったけど、エレノアは謝った。

 あと、人狼はジョージって名前なのね。


「構わぬ」人狼改めジョージが言う。「こちらも敬意を欠いていた。すまんな。最古のヴァンパイアよ」


 ジョージは割と話の分かる奴だった。

 良かった。

 喧嘩になったら俺が死ねる。

 あとエレノアも。

 エレノアはまだ弱いくせに態度が大きすぎるんだよなぁ。

 その辺り、あとで注意しよう。


「仮に実力が落ちてたとしてもさぁ」ティターニアが楽しそうに言う。「それでも四天王最強の座は揺るがないんじゃなーい?」


 おおおおおお?

 俺って四天王最強なの?

 なんでだよ、どうしてそんな話になってんだよ。

 これ本当に俺が四天王で合ってるのか?

 やっぱ違うアルトさんがいるんじゃねぇの?

 まぁ、だとしても今更、人違いですゴメンね! って言えるわけないし。


「でしょうね。魔王様の信頼も厚いですし、ね?」


 参謀が穏やかな声で言った。

 俺って魔王様から信頼されてんの?

 会ったこともないのに?

 頭大丈夫?


「ふむ。今度1度、手合わせ願いたい」ジョージが言う。「強き者と戦うのが、ワシは大好きなものでな」


 俺は嫌いです。

 お願いだから興味持たないでくれ。

 俺は微笑んでごまかした。


「それで、議題は何だ?」


 俺は話を変えることにした。


「えぇ? まだ自己紹介も済んでないのにぃ?」


 ティターニアが不服そうに言った。

 俺としては、別に自己紹介でもいい。


「そうだったな。俺はアルトだ。知っての通り、普通のヴァンパイア」


「おっかしーの!」ティターニアが手を叩いて笑った。「最古のヴァンパイアにして新たな始祖なのに、普通だって言うのぉ?」


「あぁ、えっと、キングじゃないって意味だ」

「なぁるほどぉ。妾はビビ! 普段は妖精女王だけど、魔王軍四天王も兼任してる感じぃ?」

「そんな感じか、よろしく」


 俺は笑顔で言った。

 ひとまず、ティターニア改めビビとは仲良くなれそうだ。

 いや、仲良くなっても仕方ないんだけども。

 まぁ敵対するよりはいい。


「ワシはジョージ。強さだけを求めていたら、いつの間にか四天王に選ばれていた。よろしく頼む」

「ああ、よろしく」


 俺はジョージにも笑顔を振りまく。

 すっていこう、ゴマを!


「……ロロはロロだよ」


 四天王最後の1人が言った。

 見た目の年齢は8歳ぐらいの幼女。

 ライムグリーンの髪をサイドテールに括っている。

 フリフリの服を着ていて、全体的にとっても可愛らしい。

 が、しかし。


 ドラゴンみたいな尻尾が生えていて、その尻尾を自分で囓っている。

 あれか?

 おしゃぶり的な感じで?

 よく分からないが、とにかくロロは自分の尻尾をガジガジと囓っている。

 種族も何なのかサッパリ分からない。

 一番弱そうに見えるけど、一番不思議ちゃんだ。


「最後に、我はアスタロトと申します」


 柔らかな笑みとともに、参謀が言った。

 俺は驚いた。

 なぜなら、アスタロトという名前に聞き覚えがあったから。

 比較的、最近の話だ。

 そう、確かここ1000年以内だったか。

 アスタロトはかなり高位の魔物で、非常に強いという話だったはず。

 魔界――魔王城のあるこの大陸のことだが、魔界の大公爵で、実質魔王みたいな奴だったと思ったが、今は魔王の参謀なのか。

 こいつだけは絶対に敵に回してはいけない。


「よろしく、参謀殿。噂はよく聞いている」


 俺は笑顔で言った。


「それは嬉しいですねぇ」アスタロトが言う。「しかしアルト殿の噂に比べたら、我の噂など微々たるものでしょうよ」


 んんんんんっ!?

 俺の噂、どんな風に流れてんの!?

 気になるけど怖いっ!

 アスタロトが霞むような噂ってことだもんな!

 誰が流してんだ!?

 エレノアか?

 あとで問い詰めなくては。


「それでは、会議を始めましょうか」アスタロトが言う。「もちろん知っていると思いますが、約2年前、新たな勇者が誕生しました」


 いや、俺は知らないけども……。

 引きこもりだからな、俺。

 村人とは交流あるけど、勇者の話は知らないぞ。

 田舎だから、誰も勇者の存在を知らない可能性が高いな。

 そう、平和な村なのだ。

 俺はその村で、長いこと平穏に暮らしていたのに。

 一体、何がどうなって魔王軍四天王に数えられてんだろうな?


「勇者一行は各地で猛威を振るっています」


 アスタロトが小さく首を振った。

 そんな病原菌みたいに言わなくても、と思ったけど口にしない。

 勇者の味方をする理由が俺にはない。

 むしろ積極的に敵対する素振りを見せないと、立場的にまずい気がする。


「いい迷惑よねぇ」ビビが言う。「妖精たちも、悪戯を咎められて怒ってるんだから」


 プンプン、って効果音が出そうな仕草だった。

 つーか、妖精の悪戯は割と質が悪いからな。

 そりゃ咎めるだろうぜ。

 言わないけど。


「魔王様の世界征服計画にも支障がでています」


 アスタロトの言葉に、俺は驚いた。

 そんな計画が動いてたの!?

 いや、まぁ、誰が支配しようが俺にはあんまり関係ないけども。

 てゆーか、世界征服しようとしてるから抵抗されてるんじゃねぇの?


「うむ」ジョージが言う。「多くの魔物たちが撃破されておる」

「え? そんな強いのか?」俺は驚いて言った。「人間だろ? 勇者って」

「その通り、人間であるが」ジョージが言う。「まぁお主は前勇者を倒しておるし、そういう反応なのだろうが……」


 そっかぁ、俺は前の勇者を倒したのかぁ。

 全然、記憶にねぇや。

 長く生きてるから記憶があやふやな部分も多々あるけど、俺は記憶喪失じゃない。

 うん、俺は勇者なんか知らない。

 一体、何がどうなっているのか……。


「200年前の勇者には、魔王様ですら敗れています」アスタロトが言う。「あなたがいなければ、魔王様は殺されていたでしょうね」


 あれこれ、魔王様が来たら俺が偽物だってバレるんじゃね?


「ところで魔王様は?」と俺。

「ああ、眠っておられる」とアスタロト。


「いつ頃、起きる予定だ?」

「それは魔王様にしか分からないですが、そろそろ起きるはずです。1年以内かと」


 ああ、よく寝る奴なのね。

 いるんだよな、魔物の中には年単位で寝る奴。

 まぁどうであれ、俺はしばらく安泰みたいだな。

 とはいえ、魔王が起きる前に何か対策を練らないとまずい。


 こう、四天王を引退するなんてどうだろう?

 エレノアに譲る……のは無理か。

 クイーンとして覚醒したならまだしも、エレノアは子供だしな。

 よし!

 新たな四天王候補を探そう!

 そして「俺の時代は終わったのさ、ふっ」みたいな感じで去ろう!

 完璧だ!

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