4話 魔王城の俺の部屋。俺の部屋?
「いい、天気だな……」
言ったあと、曇っていることに気付いた俺である。
「はっ! まるで我々の心を映すかのような、素晴らしい曇天でありますな!」
お前の心は曇ってんのかよエレノア!
ついでに眼も曇ってんぞ!
そして、周囲の連中は俺がまだ何か言うだろうと待っている。
どうしよっかな。
昔読んだ小説の、お気に入りの台詞でも言ってみようかな?
「死ぬには良い日だな」
「よぉし! 貴様ら自殺し……」
ゴツン、と俺はエレノアに拳骨を入れた。
何を言おうとしてんだお前はっ!
エレノアが地面にぶっ倒れる。
いや、ちょっと格好つけた俺も俺だけど!
「あのエレノア様が……一撃で……」
「お、恐ろしいお方だ……」
「同族にも……まったく容赦がない……」
「幼い同種にあの攻撃……我々が逆らったらきっと殺される……」
周囲の連中が怯え始めた。
やべぇ、俺は子供でも平気でぶん殴る男認定されちまった。
「も、申し訳ありませんアルト様」エレノアが半泣きで言う。「うぅ、お言葉の途中で口を挟んでしまい……」
エレノアは立てないようだったので、俺はスッとエレノアを抱き上げた。
お姫様抱っこである。
ふふ、これで俺は優しい男だと伝わっただろうか?
「謝罪しているエレノア様に……トドメを刺す気なのか……」
「なんて恐ろしい……顔の通りだ……」
なんでそうなるんだよっ!
抱き上げてるじゃん!?
どう見ても優しく抱き上げてるじゃん!?
「うぅ、わたくしはこの後、地面に叩きつけられるのですか? うぅ、しかしわたくしは、アルト様の言葉を遮ってしまった……覚悟はできています」
そんな覚悟すんなよぉぉぉ!
てゆーかお前、そんな極悪非道な男と結婚する気でいるのか!?
俺はゆっくりとエレノアを地面に立たせた。
まだ魔王城に入ってすらいないのに、どっと疲れた。
四天王の肩書きが重すぎる。
「もういいから、早く行こうぜ……」
俺は溜息混じりに言った。
あれだな、なるべく他人と関わらないようにしよう。
そしてエレノアの案内で、俺は魔王城の俺の部屋へと辿り着いた。
なんで魔王城に俺の部屋があるんだろうね?
初めて来たんだけどなぁ、魔王城。
俺の部屋は広く、高価な品で溢れていた。
メイドが5人ほど室内を掃除していて、俺を見てその場に土下座した。
「ら、楽にしてくれ……」
俺が言うと、メイドたちは少し怯えた様子で掃除を続けた。
「まったく、アルト様をお連れすると言っておいただろう」エレノアが怒った風に言う。「未だに掃除が終わっていないとは。万死に値するぞ!」
「いや値しねぇよ!? 俺は気にしてないからな!」
エレノアとは会って間もないが、なんとなく性格が分かってきた。
俺が気にしていないと伝えなければ、エレノアはメイドたちに罰を与える可能性がある。
エレノアは心が狭いというか、あまり余裕がないように感じる。
「アルト様が優しくて良かったな貴様ら! 今日はアルト様の優しさに感謝して過ごすのだ!」
「「はい! もちろんでございます!」」
メイドたちが深々と頭を下げつつ、声を揃えて言った。
「うん。もういいから早く掃除してくれ……」
「よし貴様ら……もぐぅお?」
俺はエレノアの口を背後から塞いだ。
話がややこしくなるから、少し黙っていようね?
それから五分程度で、掃除が終わる。
どうやら、もうほとんど終わっていたらしい。
メイドたちが俺に挨拶して、部屋を出た。
何かあったらサイドテーブルのベルを鳴らして欲しいと言い残して。
本当に疲れたなぁ。
俺はベッドにゴロンと転がった。
大きなベッドで、非常に柔らかい。
俺が普段使ってるベッドも、悪い品じゃないけど、これはその倍は心地よい。
よく眠れそうだ。
「ああそうだエレノア」
「はい。何でしょう?」
エレノアはソファに腰を下ろそうとしていたが、俺に呼ばれたので思い留まった。
「お前、太陽は克服してるよな?」
真っ昼間に俺の家に来たので、まぁ間違いなく克服していると思うけれど。
フードとローブで身体を隠してはいたけど、克服していなければ夜に動くものだ。
「ええ。最近やっと克服できました。それが何か?」
「会議が終わったらピクニックにでも行こうぜ。太陽の下、泉とかで泳ぐのもありだな」
エレノアにもっとこう、楽しいことを覚えて欲しい。
性格の矯正ってほどではないが、せめて心に余裕を持って欲しい。
「え? そ、そんな恐ろしい修行を……?」エレノアが怯えた様子で言う。「ま、まだわたくしには早いかと……さすがに長時間、太陽の下ですと……灰になってしまいます……」
克服できてねぇじゃぁぁん!
俺なんか全裸で日光浴しても平気だぞ!
「も、もっと基礎的な戦闘技術から、その、指導して頂ければと……」
あ、そういや、戦闘指導するとかテキトーなこと言ったんだったな。
普通に忘れていた。
まぁ、ピクニックは却下である。
最後の女性ヴァンパイアが灰になったら、真剣にヴァンパイアが絶滅する。
「そういや会議っていつからだ?」
俺は話題を変えることにした。
「はっ、あと3時間ほどでしょう。その間、城でも案内しますか?」
「いや、ゴロゴロする。エレノアも来いよ」
「ま、まだわたくしには、早いかと……」
エレノアが顔を真っ赤にして言った。
そういう意味じゃ、ねーよ。
マジでゴロゴロしようって言ってんだよぉぉ!
◇
会議室に入室すると、俺が最後だったらしい。
5席ある円卓の、1席だけが空いているから。
ちなみに、座っているのは四天王と参謀だ。
今回の会議を招集したのが参謀だと、手紙に書いていた。
円卓に座っている4人の背後に、それぞれの副官が立っている。
よって、この会議室には俺とエレノアを含めて10人が集まっている。
みんなの視線が俺に集中した。
こ、こえぇぇぇ。
だが弱いとバレたら困るので、俺は表情を動かさないよう努めた。
「ささっ、アルト様、こちらの席にどうぞ」
エレノアが空席に俺を案内する。
俺はゴクリと唾を飲んでから、席まで歩く。
一歩が重い。
いや、なんか処刑台に向かってる気分だな。
処刑台に向かったことないけど。
「きゃるるん♪ なんて極悪な顔付きなのぉ!」
円卓に座っている1人が言った。
人間の女性に見えるが、背中に妖精の羽が生えている。
むしろ、妖精をそのまま人間サイズにした容姿だ。
ってことはティターニアだな。
妖精たちの女王で、人間サイズなのだ
。
海のように深い青色の髪が綺麗だ。
髪はたぶん腰ぐらいまで伸びているのかな?
顔立ちは美人系で、見た目の年齢は人間の18歳ぐらいか。
俺はヴァンパイアより人間と過ごした期間が長いので、年齢の例とか人間を使うんだよなぁ。
まぁどうでもいいけど、どうせ自分用だしな。
「えぇぇ? 妾が褒めたのにぃ! 無視する方向なのぉぉ?」
ティターニアが驚いた風に言った。
無視はまずいな。
こいつらと揉めたら俺、死ねる。
よし、ゴマをすろう。
全力で!
「いや、君のあまりの美しさに見とれていたんだ」
「あっらー!」ティターニアが頬を染める。「良い奴じゃない! 一度も会議に出ないサボり魔だけど、いい奴じゃないのぉ!」
「最古のヴァンパイアがいい奴のはずが、あるまいよ」
別の奴が言った。
うん、人狼だな。
見たまんま、人狼だ。
二足歩行の狼人間。
毛の色は濃いグレイで、瞳の色が暗い赤。
身体が大きく、毛で覆われているけどマッチョなんだろうなぁ、って体型。
「そうよねぇ、200年前の戦争で、最後まで魔王様と一緒に戦って」ティターニアが弾んだ声で言う。「人類に、勇者たちに、激烈なダメージを与えたんだもんねぇ♪」
んんんんっ!?
俺の知らない武勇伝が語られてるぅぅ!
――後書き――
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