第38話 千年前の約束

 さて転送してきた雨雲が暴風雨曇でなくて良かったです。梅雨時の強さの雨なら被害はさほど無かった でしょう。

ですが、降り続いた時間が問題です。2年以上も振り続けていたら地盤は緩み崖崩れが起き、太陽の光は届かず、農作物の被害は甚大です。

ですからピーチ王国側にに持って来た雨雲も1~2カ月で海の彼方へ

転送してやりましょう。

畑の土に適度に水分が補給出来たら超早生種の穀物か芋類を創造して、一刻も早く自給自足出来る様にしなければいけませんね。


その間は私が収納している食料を提供しましょう。でも雨の中で並んで貰うのは駄目です。風邪をひいたらいけません。

ということで龍の宝珠を利用して大広場に雨よけの結界を張りました。これなら千人集まっても収容出来るでしょう。


提供する料理はカレーライスにしました。お肉も野菜も入っていますし。1皿で済ますことが出来ますし、スプーンだけで食べれます。それにワイン瓶入りの冷水を1本付けます。ここに来れない

人の為に、配達してくれる方たちを募集したら、100人も集まってくれました。

行列の整理や、カレーを渡す役目はギルド職員や冒険者の皆様に手伝って頂いています。


この人達にはあとでカツサンドでもプレゼントしましょうね。


「それで確認ですが、カミエル王国の方でも食糧難なのでしょうね。あちらの冒険者ギルドにもこのカレーライスを転送したらどうでしょうか?」

私はギルマスのジョーイさんにお伺い致しました。


 「おお、そこまで考えてくれるのか有難いまるで天女か女神様だな。良し、何人分必要か確認しよう、少し時間を呉れ」

「はい、お待ちします(ウフフ初めての協同作業ですわね)」


 ジョーイさんのお返事を待ちながら町の人々にカレーを配っていると2又に別れた小さな角を2本、頭に生やした少女の番になって目の前にいました。


「「あ、宝寿の匂い!!」」


私と少女の驚きの声が重なりました。

「それにそなた、千年前に会った勇者のオーラさえ感じる。そなたも勇者なのか?」

少女が言いました。

千年前?勇者と同じようなオーラ?

あ、この子もしかしたら!

『あなたひょっとして水龍さん?』

念話で話しかけてみました。

『お主、我の本性をみぬいたか?!やはり勇者の一人なのか?』

と、返ってきました。


私はギルドの職員さんにカレーライスの入ったマジックバックを渡して訊きました。

「ちょっと抜けますので後をお願いしていいですか?」

「はい、どうぞどうぞ」


私は少女の手を引いて、ギルマスの部屋へ向かいました。

丁度いいタイミングだったようです。ドアをノックする前に

ジョーイさんが出て来ました。


 「ジョーイさん少し時間とお部屋を貸して下さい。ギルマスとして同席もお願いします」

「ああ、いいぞ。と、この子は?」

部屋に入りながら尋ねて来ます。


 「今度のあっちの大雨、こちらのカンカン照りの関係者だと思われます」

「えええええー」

ギルマスは驚き、少女はキョトンとしています。


 私は結界を張っていた宝珠を取り出して少女の目の前に置きました。

「うむ、これはたしかに、我があの山に設置した結界の宝珠じゃがなんでお主が持っているのじゃ?」

 「これのおかげで山の向こう側は2年もの長雨で大変なことになっていたし、こちら側では雨が降らずガンガン日照りで水不足になって作物も取れず飲み水にも困っていて、今日は私が食料の炊き出し、飲み水の配給をしているのよ」


 「なんとたった2年の月日でそのようなことになるとは人間界とは脆弱なものよのう」

「そりゃ何千年も生きる龍とは違うでしょ」

「間違っておるぞよ、何千年ではなく何万年じゃぞ」


そんな時間の感覚だから今回の事件は起きたようです。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


水龍の記憶による事の顛末です


それは今から千年前の事でした。

この辺りには水を司る水龍すいりゅうと太陽を司る日龍にちりゅうが棲んでおりました。

まだ遊び盛りの2匹の龍は山を挿んで陣取りごっこ遊びをしていました。日龍は太陽をガンガン照らして地面を熱くして、水龍は水を掛けてそれを冷やすそれを繰り返して、疲れて行動不能になったほうが負けというルールでした。ルールには決闘も有りでした。エスカレートして片方が死んでしまう事も龍族には当たり前のことでした。


 ですがその付近に住んでいた人間はたまったものではありません。そこが今のカミエル王国側の土地の人達でした。


そこに現れたのが1人の勇者でした。


 人々は勇者に頼みました。あの2匹の龍を何とかしてくださいと

人間は其処らが龍たちの遊び場だと知らずに入ってきた事を自覚していました。だから退治してくれなんて言えなかったのです。


 勇者は暑さが苦手でした。なので劣勢で瀕死の重傷を負っていた水龍の味方をして日龍を遠い砂漠の地方に追いやりました。


 日龍はそこをいたく気に入ってその地に棲みつきました。

もしあの時、勇者が暑さが好きで雨が苦手だったら今頃水龍は生きていなかったでしょう。


 助けて貰った水龍はこの地を守り水不足にならないように見守って生きますと約束しました。

水龍は持っていた宝珠に自分の陣地だった今のカミエル王国側が

日照りで水不足になりそうだったら雨を降らせるように設定した結界を張ることにしました。日龍の陣地だった今のピーチ王国から日照りが押し寄せてこないようにしたのです。


「それが我と勇者の千年前の約束だった」のだそうです。

今回大事になったのは水龍が雨をませるタイミングを設定していなかった事が原因だったようです。

 水龍は現在1万2千歳人間なら12歳ぐらいです。経験不足の

子共だったのです。人間の身体に変身してもやっぱり12歳ぐらいにしか見えません。

私はピーチ王国、カミエル王国の両方の天候を自動で修正出来るように改善したこの宝珠を以前有った場所に設置して来ると言って水龍と共に転移しました。1度行った場所ならどこからでも転移出来るのです。

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