第36話 遠い国へ

 ケルト王子が私の部屋とクラリス様の部屋を間違ったのは私のせいです。あの部屋には侵入者が入ると別の部屋へ転送する罠を仕掛けていたのです。

 今回は侵入者がケルト王子だと判っていたので転送先をケルト様の部屋、おばあ様の部屋、クラリス様の部屋の3か所のうちのどれかに無作為で転送するようにしておきました。

 運が良ければ自分の部屋に跳ぶのですが今回は運悪くクラリス様の部屋でクラリス様にキスしてしまったという不運に会ってしまったのです。


 というわけで私は証拠動画を付けて国王様に伝えて、ベイルント王国を脱出しました。

地図で1番遠い国を探して、大迷宮王国とは敵対していないピーチ王国を目指して飛んでいます。

 ピーチ王国はこの大陸の最南端に位置しています。

ヤシの木の似合う南国をイメージしていますが果たしてどうでしょうか?


 私は今空を飛んでいます。爽快です。

こうして飛んでいると小さな嫌なことなど忘れてしまいます。


 もう1万kmは飛んでいます。カミエル王国辺りでしょうか?因みにこの世界のこの大陸の国は王国だけのようです。帝国も聖国もありません。

 ここ以外の大陸があるかどうかも知られていません。

その内に船舶が大きく、より安全な航行が出来る様になって大航海時代が訪れるのかも知れないですね。


 決めました。私の夢は他の大陸を探して空の旅をする事です。

その為にはもっともっと航続距離を延ばさないといけませんね。


 地球の場合だと1周4万kmちょっとだった気がします。なので

5万キロメートルは休まずに飛び続けたいですが、そんなこと

夢のまた夢のお話。途中に島とかあれば良いですが無いと飛び続けなければ海に落ちちゃいます。

だったらお空に休憩スペース用に結界を張ろうかしら。

空に浮かぶ島を作っちゃうとか……

どれだけの魔力量が必要になるのでしょうね。


 そうしているうちに、ピーチ王国との国境付近に着きました。

そろそろ人けのない地上に降りて自宅を取り出してベッドに潜りたいです。目に見える国境線なんて無いですからピーチ王国とは仲の悪いカミエル王国側に降りても、人に見られなければ問題ないと思いますけれど……


 そうだ。あの一際高い山の平らな所に降りて見ましょう。

南側なら多分ピーチ王国の領域でしょう。


その高い山を境にして、カミエル王国側は雨、ピーチ王国側は

晴れでした。


 標高3000m付近に手頃な平地が有ったのでそこに着陸しました。ずっとうつ伏せ状態で飛んでいたので体中が固まっている状態です。大きく屈伸運動をします。


それにしても暑いです。この標高なら寒いだろうと思って厚着して家の外に出たら汗が止まりません。気温鑑定したら20度も有ります。これだと地上は40度くらいありそうですね。


一先ずベッドで一眠りして腹ごしらえをしてから下界に降りてみようと思います。



下界では外を出歩く人の姿が有りません。畑の植物も暑さにしおれていて、土もカラカラに乾ききっています。

山の反対側の雨雲を転送させてこようかしら。


 でもその前に冒険者ギルドで何が起きているのか確認しておきましょう。


 冒険者ギルド内ではカウンターの職員がぐったりしてデスクに顔を伏せています。酒場でも数人しかいない冒険者が同じように

テーブルに突っ伏しています。皆さん暑さにやられているのでしょうね。


 ギルドの窓は開けっぱなしですが風が入ってこないので蒸し暑いのです。


 私は受付のお姉さんに声を掛けました。

「あ、ああー何か用?」面倒くさそうな声で言います。


 「あのこの辺はやたらに暑いですけどいつもこんな感じなんですか?」

「もう2年も雨が降らないし。気温も平年より5度以上高いのよ

井戸も枯れて水不足だし、畑もカラカラ。もうこの町はお終いね


 「頼む、誰か水持ってないか?孫が喉が渇いて死にそうなんじゃ」

お爺さんがフラフラとギルドに入ってきました。

誰も反応しません。

「お爺さんこれどうぞ」

私はワインの空きビンに冷水をたっぷり入れて差し出しました。

ガタガタガタガタギルド内のあちこちで立ち上がる音がします。


「お、俺にも水」「私にも水を」「私にも」「俺にも」


「お姉さん、私お水を持っているので、欲しい方に声かけて頂いてもいいですか?、出来れば、入れ物も用意して来て頂ければ嬉しいのですが」


「は、はい、今すぐに。でもその前に私にもお水を一杯」

「はいではこれを」

お水の入ったワイン瓶を渡しました。冒険者の皆さんにも渡します。


「お嬢さん、俺はここのギルドマスターのジョーイという者だが

水を提供してくれてありがとう。少し俺の部屋で話を聞いてくれないか?」


奥から、50歳位の苦み走ったナイスガイが現れました。

ああ、心は50歳の私にとってドストライクの殿御とのごです。イケナイイケナイ不倫の匂いがプンプンします。絶対駄目なやつです。気持ちを押さえろ私。


「はい、では職員の皆さんここにお水を1000本置いておきますので必要な方々に配ってくださいませんか?」


「「「おまかせください」」」


私はギルマスについて行きます。

 「あんた、大迷宮王国から来た【仙女ユイ様】だろう?いや、でしょう?」

「なぜそれを?」

 「実はベイルント王国の冒険者ギルドから通達が有ってな、その国のバカ婆とくそ王子がやらかして、旅に出た。今度は遠くに行きたいとおっしゃっていたとの証言を得たのでここから遠いピーチ王国に行くかもしれない、決して害を為さないようにとな」

 飛んできた私よりも先に通達があったということはもしや……

マジックバッグが使われてる?

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