第6話
遺跡は鍾乳洞から入ってしばらく行ったところにあるという。そんなに奥まで進むことはないらしい。発見者は、開拓団のリーダーであり農学研究者のタカハシだった。それまで主星名+アルファベットの名称で呼ばれていたこの星に「アメリア」と名付けた人物でもある。
石灰岩の採掘現場を横目で見ながら目的地へと向かうと、やがて鍾乳洞の入り口と、その前に立つタカハシが見えた。
「はじめまして。セルゲイです。タカハシさんですね?」と型どおりの挨拶と確認をする。
「ようこそセルゲイさん。タカハシです。遠路はるばる、こんなところまでよく来てくださいました。」タカハシはニコニコと愛想よく笑う。年齢は40代半ば、といったところだろうか。開拓団のリーダーとしては、やや年齢が高い。タカハシという名前と、黒目、黒髪、など、特徴としてはそのルーツは地球の東アジアにあるニッポンという国に有ると思われる。そういえば、夢に出てきた女の子も、教師も、ニッポンの人間だった。
「早速だが、遺跡を見に行きたい。」タカハシの案内で鍾乳洞の入り口へ足を踏み入れる。内部にはライト等が設置され、中の様子は良くわかるようになっていた。
「一応、それなりにルートは確保できていますが、念のため気をつけてくださいね。」そういうとタカハシは足元を気にしながら少しずつ先に進んでいく。
しばらくすると、報告書の通り、明らかな人工物が見えた。1㎡ぐらいの広さで高さは10㎝ぐらいの平べったい石だが、表面には文字のようなものが掘ってある。
「この石板なんですが、明らかに文字が掘ってありますよね。とすると、この星にはそれなりに高度な知的生命体がいたということになるんですが…。この文字、AIに分析させても規則性ぐらいしかわからないんです。何とかこれが読めたら良いんですが…」とタカハシは困ったような顔を見せた。彼も科学者だ。こういったものは気になるのだろう。だが、地球の文明とは全くルーツの違う異星人の文字だ。他にも記録のようなものがあれば何とかなるのだが…、いや、待てよ。俺はこの文字を読める…。なぜだ?
「い と し の む す め…」俺はほぼ無意識に口に出して読んでいた。
「セルゲイさん?これが読めるんですか?」タカハシは驚いている。そりゃ驚くだろう。いくら考古学者だからといって、いきなり何の根拠もなく異星人の文字を読める訳がない。だが…
「ああ、なぜだかわからないが俺はこの文字を知っている。」俺がそういうと、タカハシは続きをせがんだ。そのはしゃぎ方はまるで子供のようだ。そういえば、なぜこの男はこの星にアメリアと名付けたのだろう。そうだ…アメリアとは…
「タカハシさん。解読をする前に1つ確認したいことがあるのですが。なぜ、この星にアメリアと名をつけたのですか?」タカハシはきょとんとしていた。それもそうだ。大発見を前に突然、関係のない事を質問されたのだから。
「なぜって…、実は、この星に降り立った時、ふと頭に浮かんだんです。アメリアって。それだけなんですが、妙にしっくりときましたので。それが、この遺跡と何か関係があると?セルゲイさんは何かわかったんですか?」タカハシは謎の解明を目前に興奮している。
「愛しの娘 アメリア 無実の罪で ここに眠る」今度はスラスラと読めた。
アメリアは無実の罪を着せられ、激高した王太子に剣で切られたのだ。すべて思い出した。私はアメリアだった。
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